2008年 08月 07日
1、よく知らなかった日本の刀 これまでとくに刀を意識してみる機会はなかった。おそらく数だけで言うなら日本の刀よりは海外の剣のほうが見る機会があった。 ただし、鋼で最も名高いダマスカス鋼については見たことがない。ダマスカス特有の優美な刃紋がある点といい、何層も重ねて鍛えたことといい、切れ味がよく十字軍の時代の王侯が手に入れたがったというのがダマスカス鋼である。だが、今はすたれてしまって再現できないという。 日本の刀については藤澤周平などの小説を通して剣術の世界の言葉だけは目にしているが、実際にそれがどの部分をいい、どのようなつくりになっているのかわからなかった。 TVの「何でも鑑定団」を通して、目釘をぬくことで簡単に刀を柄から外すことができると知った。でも目釘って?藤沢周平の作品で小柄(こづか)というものが刀の脇についていることを知った。小柄ってどこに差してあるの? なあんだ!日本のこと全然知らないんだ!改めて、自分の無知を知る。 2、『秋田藩の刀工展』 佐竹史料館の企画展で、46点の刀・脇差・鐔(つば)などが展示されていた。じっくり見ることができる・・・こういう時間はとても大切にしたい。何も知らなくとも何かが見えてくるかもしれない。 すると、トプカプ宮殿や軍事博物館、ウダイプールの宮殿博物館などで展示してあった剣を見たときとは異なるものを感じた。 これまで見てきたものは、スルタン用の華麗な宝石飾りのものが多かった。また、実戦用は切れ味というよりは力技で相手の骨まで砕いてしまうような武器だった。恐ろしさは身震いするほどであったが、日本刀の印象はこれらとは全く異なるものだった。 刀のそりが美しいからか?・・・たしかに美しい、しかしそれだけではない。そこに日本刀があるというだけで空気がピ~ンと張り詰めるような・・・、静寂の中に緊張が存在した。 それから、ふとこの部屋の張り紙に気付いた。刃紋を見たい方は照明をつけるので声をかけてください・・・とのこと。もちろん、照明をつけてもらった。これは「刀剣保存会のI氏が手作りされたそうだが、白熱電球5個をつなげて天井からつるしてあった。 (↑なんという刀か名前をいれずに撮ってしまったため、掲載許可が取れません。そこで全体像のうち、波紋部分だけを参考とさせていただきます。掲載不可の場合は下のコメント欄を使ってご連絡ください。) この照明をつけてもらうとたしかに刀の刃に並んだ照明が当たって刃紋がくっきりとしてずっと見やすくなった。 見学に行かれたら、是非お試しを! ~~~~『秋田藩の刀工展』~~~~~ ◆期間◆ 2008.6.29.~2008.08.31 主催:秋田市立佐竹史料館 秋田市千秋公園1-4 協賛:(財)日本美術刀剣保存協会秋田県支部 3、玉鋼(たまはがね)と日本刀・・・これは自分の学びのまとめです。 日本刀はどこが異なるのか、それを知るにはまず製法から確認してみよう。 日本の古くからの製鉄法をたたら製鉄という。 鋼(はがね)というものは加熱して叩けば延びるという。その中でも表面が均一で上質のものをとくに玉鋼(たまはがね)とよぶ。この性質により、日本刀をつくることを刀を”うつ”あるいは”きたえる”という。玉鋼の材料は砂鉄からとるといわれるが、その辺の海岸で磁石で取ってくればいいというわけではない。現代では中国山地の北側で採れる真砂(まさ)砂鉄を使って唯一、島根県の刀匠だけが今でも生産しているという。 17世紀以降はふいごを使ったりして炉の中を高温に高め、真っ赤になった鋼を持ち手が台の上で支える。打ち手はそれをめがけて鎚をおもいっきりふりおろし、火花が飛び散る。よく映画やドラマで出てくる風景である。 「加熱して叩くと延びる」性質であるから、何度も叩いていくうちに延びてくる。この中央にタガネを入れて半分に折る。また炉に入れて真っ赤になるまで熱する。 この折り返し鍛錬をふつう20回続ける。刀を打つ仕事というのは技と力が必要だ。パイの生地を折っていくのと同じで、一回折れば2層、2階折れば4層、3回で8層、・・・と続けていく。 突然ですが、ここで、 ◆クイズ◆! 20回たたんでは打つことを繰り返すと、玉鋼は一体何層になるでしょう? ・・・・四択問題 ① 1000層 ②3万層 ③13万層 ④100万層 ↓ ◆クイズの答◆ ① 10回折ると・・・・・・・1024層 ②15回折ると・・・・・・・32768層 ③ 17回折ると・・・・131072層 ④20回折ると・・・・1048576層 *したがって④が正解! 実際には十数回ということもあるので、③か④ぐらいの薄い層が重なるようにして鍛えられて、粘りのある刃になっていくのだった。 こうして、すぐれた玉鋼によって刀が作られていくのだが、 玉鋼が他と異なるのは、硬くて粘りがある点である。また研磨しやすいのでよい刃ができる。錆びにくい。(注意しないと錆びるが・・・)。焼きの境が文様となって現れ、刀紋となる。 刃紋もつくりも刀匠次第なので、刀を見て専門家は時代も製作した刀匠まであててしまうという。 参考:National Geographic 2002-10月号 日本美術刀剣保存協会の方のお話 http://www.hitachi-metals.co.jp/tatara/nnp0108.htm ◇~~~~~~◇~~~~~~◇~~~~~~◇~~~~~~◇ 物を知るには、まず見て、そしてつくり方を確認する。ものを見つめ続けてきた私がよくやることで、原点に戻って刀の入門編をほんのちょっとだけまとめてみた。 見たときの刀の緊張感・静寂感はここからきたのかと今はわかる。刀を精神をこめて打って、打って、何十万ものはがねの層にしながら鍛えられたことを知って、刀工展のあの部屋の緊張感と清涼感を今一度ふり返っている。 日本では鳥取県で全国の刀工に渡すための玉鋼をかろうじて作っている人がいることがわかった。各地に刀匠と呼ばれる人もいるし、専門の研ぎ師もいる。全国に刀剣の保存に努める人がいる。 それに対して、同じような鋼(はがね)を鍛えることによって人々が賞賛したダマスカス鋼の剣は技術が途絶えて久しい。 日本刀とてこれだけの技術や精神性、そして材料としての玉鋼を失えばもう技術は伝わらなくなる恐れがあるのだ。その危惧を感じながら、やはり伝えなければならないものがあると強く感じた次第である。
by miriyun
| 2008-08-07 05:54
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Comments(6)
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通りすがり
at 2011-02-15 23:35
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日本刀の伝統が途絶える・・・
もしそうなるようなことがあったら悲しいです>< 日本刀の技術は世界に誇れるものだから永遠に続いてほしいです。
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miriyun at 2011-02-16 00:39
通りすがりさん、日本の技術や伝統を知るほどに、絶やしてはならないという気持ちが強まります。せめてこうして書くことだけしかできませんが、コメントという形で応援していただけてとてもうれしいです。
日本刀、触るのは怖いですが、本当に素晴らしいものです!
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通りすがり
at 2012-05-09 08:38
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貴方の勉強された日本刀は最も退化した新々刀の概念です。
日本刀を象徴する古刀とは違います。 世の中の日本刀の解説は作られた「神話」です。表層的な捉え方は残念ですね。 日本刀の実態は以下に詳しいですよ。 http://www.k3.dion.ne.jp/~j-gunto/gunto_028.htm
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miriyun at 2012-10-09 10:11
久しぶりに来てみたら、通りすがりさんて、最初のコメントの方ですね。1年の間に勉強されたのですね。
このあたりの分野は本文に書いたように自分なりにさわりを学んだことをまとめているだけですが、 読まれた方が深く調べたりするきっかけになっていればうれしいです。
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名無し
at 2020-06-16 08:58
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古い投稿のようで今書き込みしても読んでいただけるかもですが。
ダマスカスソードの材料鉄はダマスカス鋼というのでしょうか。 自分の記憶ではインドの名鉄ウーツ鋼を昔日のダマスカスで鍛えたものと思っています。
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miriyun at 2020-06-16 19:44
名無しさん、
ここで取り上げているのは、ダマスカス鋼という製造法が謎の鋼と、王侯・諸侯の求めたのはそれを用いた刀剣です。そのへん、曖昧に書いていました。 おそらくウーツ鋼が主材料であるという点で同意します。 バナジウムを含むウーツ鋼に由来するという解説や、鋳鉄がるつぼでゆっくり凝固するときの内部結晶作用で文様ができる、クロムを混ぜるとサビないなど数々の研究がなされてきていますが、歴史上のダマスカス鋼のすべての性質を説明しきれていないので、いまだに神秘性があるのではないでしょうか。 |
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