2008年 05月 19日
イエメンには女王の話が多い。特に紀元前10世紀のシバ王国の女王は旧約聖書に現れてくるだけに興味深い。 本拠地がエチオピアでマケダ女王がそれに当たるとする説と、イエメンのビルキス女王のことであるという説がある。また、その双方に領土がまたがっていたという説もある。 いずれにしろ実在の証拠は出ていない。ただ3000年前の文明のあととしてマーリブが可能性が高いとされている。 古代においてイエメンが栄えたのは乳香交易による。アラビア半島南部の交易ルートを支配したシバ王国にとって、地中海東部の交易の要であった古代イスラエル王国との友好政策を行っていた。 これは当時の乳香が運ばれた交易路をあらわした地図だ。海岸側からはいった乳香はハダラマウト地方の谷に沿って運ばれていく。その乳香の道はタリム・サユーン・シバームというハダラマウトに発展した交易都市が出現する。 そしてこのルートを北にとるとそこにマーリブがある。 つまり、今でこそ、マーリブは首都サナアの東の山岳地帯に存在する地方であるが、古代においてはマーリブこそが交易ルートの中にしっかりと位置していたのである。 (尚、地図中の水色の円筒形で表したのは紀元前後にナバテア人の活躍と共に重要な交易路となっていったところであり、現代では二つのイエメンの首都となった場所でもある。時代が全く異なるが参考までに。) 乳香はカンラン科の植物の樹液で白い樹脂が出てきてそれが固まってできる。 このアフリカや現在のオマーンで取れた乳香は当時黄金に匹敵する価値の高い香料であり、原始宗教ではこれが度々使われた。 (↑小写真2点はNHKシルクロード・イエメンより引用) 聖書において、シバの女王が乳香を最上の宝としてソロモン王への贈り物として持っていったことが示されている。それを後世に絵に表したもの。 古代イスラエルのユダヤ教の祭事には乳香をたくさん使ったため、必需品であったといわれる。しかし、古代のユダヤ人の王国が滅亡していくにしたがい、徐々に乳香交易は衰え始める。そしてあらたな交易路ができたこともあり、マーリブを通る交易路はすたれていったのであった。 これは、乳香の道であったタリム・サユーン・シバームがあるハダラマウト地方で今もわずかに流通している乳香である。 イスラームの世界では、モスクで乳香やろうそくなどを使った祭事を行わない。あるのは人々の神との対話だけであり、それ以外のものは必要ない。だからモスクには特に乳香はない。あってもいいが別に必需品ではない。 しかしイエメンの人々にとって、乳香は生活の一部としてごく普通に使われているものである。さりげなくくゆらせ、お客を歓待する。あるいは衣服に炊き込め、乳香の香りの白湯で新年を祝う(使い方は、以前の記事に記載。)ここでもイエメンの精神性が日本人に近いかなと思わせるような面が見られる。 ―――その香りは人々を魅了し、その色は人々を夢にいざなった。
by miriyun
| 2008-05-19 23:07
|
Comments(4)
Commented
by
ぺいとん
at 2008-05-20 00:25
x
このやわらかな色あいがなんとも言えずに好きです。
せっかくですから、目の前で香炉に火を入れました。 立ち上る香りと指先に残った香り、やさしい色と共に夢への前奏曲となりました。 おやすみなさい、miriyunさんもよい夢を。
0
Commented
by
miriyun at 2008-05-20 21:20
ぺいとんさんもこの香りを一緒に楽しんでおられると思うだけで嬉しいですね。
合成もののきつさがなくてほのかに指先に残る感じ、 ソフトな色合いと香りは癒しになります。時々私も楽しんでいます。
Commented
at 2009-02-15 18:55
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
miriyun at 2009-02-16 05:26
鍵コメ様、ようこそ。
写真について、このように言っていただきありがとうございます。 乳香の歴史をたどりにいかれるとのことですが、個人でしょうか、それともツアーを組むのでしょうか。個人的にいく場合はガイドをつけるのか、アラビア語を話せるのかで、動きが違いますね。 オマーンは今でも乳香の木があるところなので、それは見逃せないでしょう。歴史をたどるということですが、そうするとマーリブをはじめ乳香交易ルートが登場してきますが、マーリブなどいくつもの地域が外国人誘拐などで外務省の安全情報で警告されていますし、サナアもテロがあったり、事件が起きています。そういったリスクがあるので、他の国と同じような意識では歩かないほうがいいです。 なお、詳しくはこの件について書いた文があるのでご参照ください。 http://mphot.exblog.jp/8893297/ |
アバウト
カレンダー
記事ランキング
タグ
高橋大輔・フィギュアスケート(345)
季節の風物・日本の光景(317) ★アラビア書道(153) ◆イスタンブル歴史紀行(142) UAE(ドバイ・アブダビ・シャルジャーなど)(139) シリア(86) イエメン(85) ◆料理とお菓子と(85) 本田孝一氏Web作品展(63) トルコ(63) ◆時の話題(62) Fuad Kouichi Honda(58) チュニジア(51) ◆ラクダ(50) マレーシア(49) ◆砂漠・砂漠化・砂・蜃気楼(47) イラン(ペルシア)(44) ヨルダン(43) サハラの情景(43) アラビア語のカリグラフィー(38) ペトラ遺跡(37) ◆各地のモスク・廟・メドレセ(35) 港ものがたり(34) 文様の話(植物文様・動物文様・組紐文様など)(34) 鳥(クジャク・ハト・カモメ・シラサギ・ダチョウなど)(32) ◆子どもたち(32) アラブ・チャリティー・バザー(30) イスラームの工芸(エブル・テズヒーブ・金彩・装丁)(29) オスマン帝国外伝(29) ◆砂漠の植物・その他の植物(28) ◆衣生活*民族衣装(27) ★ライオン紀行(27) 植物の話(葦・ザクロ・綿花・桑・オリーブ・ひまわりなど)(26) モザイク紀行(26) サラディン(26) 王ヶ頭ホテル・美ヶ原(25) ◆世界の家のつくり・材料(25) アル・マハ・デザート・リゾート(25) ◆人々と暮らし(24) 日食・月食・星・虹・幻日・ブロッケン現象・サンピラー(24) アブダビ(23) 絨毯・キリム(23) ウズベキスタン(サマルカンド・ブハラ・タシケントなど)(23) ◆国際協力(JICA・青年海外協力隊・NGO)(23) ◆象嵌(貴石・大理石・貝・金属など)(22) ◆ペトラ特集(22) クローズアップ人物(22) レバノン(21) ◆古代エジプト(21) タイル(21) ◆馬・牛・ロバ・ヘビ・家禽(21) 東京ジャーミー(モスク)(21) 桜(21) オリンピック開会式・他(20) ◆光の技・朝景・夕景(19) シェイク・ザーイド・モスク(19) ナツメヤシの話(19) 映画と史実・撮影地・エピソード(18) ◆ワディ・ラム特集(18) クイズ(18) ローマ帝国(17) 世界のフルーツの話(17) 水生植物(睡蓮・蓮など)(16) ◆レイクパレス(16) イマーム・モスク(16) 猛禽類(鷹・ハヤブサ・梟・鷲)・鷹狩(15) 東日本大震災(15) エジプト(14) ◆ミニアチュール(14) 航空写真(14) ◆飲み物(お茶・コーヒーなど)(14) カンボジア(14) デーツ(13) ミマール・スィナン(シナン)(13) サウジアラビア(12) アヤ・ソフィア(12) ◆ウマイヤドモスク特集(12) ◆トプカプ宮殿(11) トゥーラ・トゥグラー(11) アラビアン・オリックス(11) ブルジュ・ハリファ(11) 佐竹史料館(10) ペトロナスツインタワー(10) ◆結婚式・割礼式など(10) ◆古代文字(ヒエログリフ・楔形文字・ローマ・ナバテア文字他)(10) ◆水の話・水道橋・貯水池(10) ★刺繍・布・織りの世界(10) アラビア書道の年賀状・カード(10) ダマスカス(9) 熱気球の旅(9) 浴場・風呂の話・テルマエ・ハンマーム(9) ◆暦・古天文・科学(9) パピルスの話(9) ◆日本との関連(9) モスクのつくり(ドーム・天井・ミフラーブ・ミンバル・絨毯他)(8) プロカメラマンの話&写真展(8) ◆オアシスとその周辺(8) ミナレット(マナーラ)(8) 武士の文化(8) ◆タージ・マハルとアグラ城(8) 最新のコメント
お気に入りブログ
ヒンズー語ではありません。 中東イベント情報 アフガニスタン/パキスタ... イスラムアート紀行 はなももの別館 部族の絨毯と布 caff... Over the Blue アジアⅩのブログ 旅と絨毯とアフガニスタン トルコ~スパイシーライフ♪ にっと&かふぇ ギャラリーもっこ堂 アートなD1sk 前田画楽堂本舗 森の釣り人 アトリエサフラン トルコ... ツルカメ DAYS ソーニャの食べればご機嫌 - イスタンブル発 - ... わんわんぶー *********
・・・・・・・・・・
イスラームの自然や文化の写真はすべて自分の撮影したものです。ご利用になりたい方は非公開コメントにしてコメント欄に連絡用メアド等記入してください。 ▼△▼Ranking▼△▼ *応援ありがとうございます ◆It is prohibited to use the photograph, the image, and the illustration published in this blog without permission. ▼リンク集(エキサイト以外)▼ ◆こよみのページ ◆茉莉千日香 luntaの大きい旅小さい旅 いち子ばーばのお針箱Ⅱ 旅のミラクル 風と花を紡いで Kの庭 CROKO NOTE 地球散歩 エジプト大好きAnnyのひとりごと エジプト旅行カバン 中東ぶらぶら回想記 Asian Memories ETHNOMANIA 優しい世界の作り方。 のぶヒろぐ~漆喰について日々考える~ シンガポール熱帯植物だより+あるふぁ 実りのとき The Japanese Dubai ************* ☆日本アラビア書道協会(JACA) ☆アラビア書道とその周辺 ▼▼▼▼▼▼ ▲自己紹介▲ ☆写真・・・カメラを通すと新しい視点が与えられます。 ・TV番組や書籍に採用されています。(使用をご希望の方はコメント欄にご記入ください。) ☆文字・・・ヒエログリフ・楔形文字・マヤ数字・トンパなどにはじまった文字への思いは、アラビア書道に昇華しています。 ・アラビア書道 IRCICA国際競書大会 第4回・第5回・第6回いずれも Incentive Prizes 入選 ☆自然・・・イスラーム地域や日本の自然のささやきをひろってきます。ただし、最近はアジア・ヨーロッパなども含めて幅広く書いています。 ☆文化・・・いろいろな地域の文化比較や相互の関連を見ていきます。 ★これらが一つに重なって大きなライフワークになっています。 ☆また、スポーツの世界で稀有の芸術性を体現するフィギュアスケーター高橋大輔選手の魂の演技を見つめ応援しています。 ◆アクセス数(2006年5月ネームカード導入後のカウントで表記) 2017年 700万アクセスとなりました。 ご訪問ありがとうございます! ◆Welcome!! (2009.03.28より設置) ☆最新の来訪国等 ようこそ!(^_^)/ 183か国目マン島 182か国目セントルシア 181か国目マリ 180か国目バヌアツ 179か国目トンガ 178か国目バルバドス 177か国目キュラソー(オランダ領) 176か国目ジブラルタル 175か国目モーリタニア 174か国目ジャージー 173か国目セイシェル ▼▼▼▼▼▼ ◆こちらは自然と文化を一個人が自由に語るブログです。内容に関係のないコメントおよび販売を目的としたコメント、各種中傷、政治的発言等はこちらで削除させていただきますので、ご理解のほど、よろしくお願いします。 ブログパーツ
カテゴリ
全体 自然(砂漠・ラクダ・蜃気楼) アラビア書道 カリグラフィーを読もう サラディン紀行 Fuad Kouichi Honda ヨルダン イスラームの工芸 トルコ 絨毯・キリム シリア 東京ジャーミー(工芸) イラン(ペルシア) 日本の中のイスラーム 食べ物・飲み物 中東について レバノン イスラーム全般 写真館 中央アジア 数字・文字 チュニジア エジプト その他 インド U.A.E. 文様の伝播 マレーシア サウジアラビア 日本 動植物 カンボジア 空・太陽・月・星・雲 未分類 以前の記事
2023年 10月 2023年 09月 2023年 04月 2023年 03月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 08月 2022年 06月 2022年 05月 more... 検索
外部リンク
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||