2006年 10月 17日
horaiceさんのOver the Blue に スイスレマン湖湖畔のシオン城の窓の写真を見て、おやっと思った。ほとんどヨーロッパには足を踏み入れていないのでもちろんここにも行ったたことがない。ふつうは「きれいな湖畔のお城ね」と見過ごすところだったが、何かが引っかかっている。 それは窓の造形と装飾の置き方であった。家にいたわけでないので写真を確認できないのだが、クラック・ド・シュバリエの窓に似ている。それに窓上に十字架に通じるようなマークがある。 直感としか言いようがないが、十字軍のイメージが湧いてくる。 ちょっと気になるのでコメントしたら、更に詳しい屋根近くの十字の印がついた写真をupしてくださった。 1、 家に戻ってから調べたら、頭の片隅に記憶していた次の写真が出てきた。 ↑ クラック・ド・シュバリエの騎士の窓。この城はサラディン紀行で紹介したように十字軍がシリアに作った城である。どこが似ているかといえば、中央に立つ柱によって二分されていること。その上に分割されたアーチがあり、装飾がある。 窓を装飾するために分割する様式でゴシックに多用されていくトレーサリーという方法があるが、分割する弧は緩やかでロマネスクから移り変わる過渡期のように思う。そのトレーサリー窓に近い形が、双方に見られるというだけで、西洋建築を知らないわたしはこれ以上語れない。 しかし、歴史から尋ねていく方法はある。はたして、直感的に感じた十字軍に近づけるのだろうか。 2、シオン城のパンフレット これによると、シオン(シヨン)城というのは大変な規模である上に9世紀以前の関所の役割を担った頃の土台から近代に至るまで、増築・改築・城主の変遷など激しく移り変わりがあったということがわかる。 また、ご紹介いただいた窓がどこの窓かわからないが、窓によって、全く年代が異なることがわかった。 No.8 城主の大広間・・13世紀、 No.12 紋章(騎士)の間・・15世紀、 No.14・・13世紀、 No.16・・14世紀、 ↑シオン城(HP夢から利用フリーの写真を引用「) 3、シオン城について、ここまでで気になるキーワード ・窓のつくり ・屋根近くの十字文様 ・シオンという名 ・12~14世紀改修 ・サヴォイ伯 ・ピーター2世・・・シオン城公式サイト *なにぶんにも、自分で訪れているわけではない.見させていただいた写真がどこの部屋の窓かわからないので何世紀のものか限定できない。上の二ついかんともしがたい。 シオンはシオンという聖職者の名らしい。(シオンの丘・テンプル騎士団も少しは登場してきそうなのだが、キリスト教世界に疎くて、今回はここまでとし、広げるのを断念) 残りの2点だが、これらがどう絡み合っているか。 4、サヴォイ家(サヴォワ・サヴォイア・・・言語によって発音は異なる) シオン城は9世紀から関所としての役割で始まったというが、12世紀にはサヴォイ家の所有となる。サヴォイ家は当時イタリアのピエモンテからフランスの南西部及びスイスのフランス語圏を支配していた。もちろん、シオン城のあるレマン湖周辺も含まれる。 とくに13世紀にサヴォワ伯爵ピーター2世の時代、お抱え建築家のピエール・メニエルによって大きく改築がなされた。 この時点で十字軍との関連をあらわす資料が見つからない。しかし、十字軍の東西への通路に当たる場所であるから文化的な影響は充分考えられるだろう。 十字軍との関連は1365年にでてくる。サヴォイ伯十字軍というのがある。キプロスのリュジニャン家が十字軍を組織し、一時的にガリポリ占領。同時にサヴォイ伯がエジプトを攻撃したというものだ。 ここで一応十字軍には行き当たったのであるが、その後公爵となるとサヴォイ家は十字のマークを2つも紋章に表す。なぜ、そこまで十字にこだわるのだろうか。 5、リュジニャン家とサヴォイ公の関係は? *少しずつ解きほぐしていったら、サラディンの時代に遡っての話になった。 まず、最初の十字軍はエルサレムを陥落させ、エルサレム王家をつくった。ブーローニュ伯爵家のゴドフロア・ド・ブイヨンが陥落させたが、自らは王を名乗らず、息子のボードゥアン1世がはじめて国王となる。1185年、サラディンにも一目置かれたハンセン氏病の王ボードゥアン4世がなくなると姉のシビラがエルサレム女王となった。 シビラの夫はアルメニア系のギー・ド・リュジニャンであった。シビラの夫として王を名乗り力を持つ。サラディンがこのエルサレムを奪還したのが1187年、その後のエルサレム王国は地中海沿いにわずかに防衛するだけになっている。が、ギーはシビラ亡き後、その権力を離そうとしない。そこでリチャード獅子心王がその時、ビザンティンから奪って抑えていたキプロスの王にしてやることでギーを納得させて、エルサレム王はシビラの妹が受け継いでいく。 ところが、こうしてキプロス王となったギー・ド・リュジニャンの子孫は13世紀に滅んだエルサレム王国の称号を受け継ぐことになった。そのうち14世紀にはアルメニアも滅び、アルメニア王国の称号も受け継ぐことになる。(あの人望も高潔な志もなかったギーの子孫がこれほどの王冠に飾られることになるとは・・・。驚きだ) アルメニア王家の一員であったギー・ド・リュジニャンから11代目にあたるピエール2世1369~1382)に称号が移り、彼はキプロス&エルサレム&アルメニア王となった。 その後、キプロス王家はベネチアによって抑えられ、1489年に滅亡させられている。亡命生活をしていた女王シャルロットは甥のサヴォイ公カルロ1世にその称号を譲った。したがってサヴォイ公もエルサレム王を引き継いでいる。、 シオン城の持ち主は以後、エルサレム王の称号を持ち、十字軍国家の名を存続させていったのである。ただし、16世紀にはスイス部分は手放してこの城の所有者でもなくなってしまう。 6、サヴォイ家は1861年統一王家としてイタリアを治めるようになった。大戦後は王家は追放になり、スイスに亡命しており、年老いた王家の人は最近ようやくイタリアに戻ることを許された。しかし、亡命したスイス・レマン湖のあたりは、もともとサヴォイ家の領有するところだったわけなのだ。サヴォイ家の紋章には青い盾、赤の下地に白い十字架、獅子が何頭か、馬1頭、それにエルサレム王国の十字紋章が入っている。 (*余談だが、イタリアのサッカーチームのアズーリはやユニホームなどのチームカラーが青だという。イタリアの三色旗には青が入ってはいない。それなのに青なのは王家の青い盾の紋章に由来するといわれている。) ★こんなわけで、シオン城の持ち主は十字軍にも行っているし、また、十字軍国家エルサレムの称号と紋章を受け継ぐ家となっていたのである。なんとなく十字軍を直感して、調べ始めてしまい、エルサレム十字軍国家と関係があったということはわかった。しかし十字軍の影響が建築のどこにどうあらわされているのか、いつの時代のものか文化的な説明はできなかった。 ★ 一応、歴史面だけでは関連を調べることができた。 horaiceさんの写真のおかげで、あまり知らなかったヨーロッパのほんの一部だが、興味深く見ていくことができた。、十字軍のギーやシビラのその後から、気になっていたアルメニア王家の話も出てきたし、現在のイタリア王家までつながり自分としては楽しめた。 しかし、ヨーロッパの王侯は婚姻関係で親戚だらけなので、すごく複雑で、紋章学もやらないで、ヨーロッパに手を出すのは禁物だ。スイスの国旗に十字がある理由、サヴォイ家の盾に十字の紋章がいつから使われたか、などがわかると更に十字軍に近づけそうだと思いつつ、これ以上深入りするのをやめておく。 ・・・・・そろそろイスラームに戻ろう。 興味をもったら一日一回ポチッとお願いします。
by miriyun
| 2006-10-17 04:15
| その他
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Comments(4)
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horaice at 2006-10-19 12:05
miriyunさん:-D 感動です!!miriyunさんの根気あるリサーチのおかげで、一つの写真でこんな風に繋げて頂けたこと感謝しております☆ 歴史はどんどん広がりを持ち、繋がっているものですね。とても勉強になりました。こちらからもリンクさせて頂きますね。
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miriyun at 2006-10-19 16:16
horaiceさん、あまり知らないヨーロッパなので、ふだんはこんなに深入りしないんです。ところが、写真を見たのが入院ちゅうだったので考える時間がたっぷりあってメモしていたら、とてもhoraiseさんのところのコメント欄に書ける量ではなくなったので、こちらでまとめさせていただきました。入院している時って、家族の心配・仕事の心配・各種締め切りのあるものの心配などつまらないことばかり考えてしまうんですが、今回インタネットの見えるテレビのおかげで、十字軍や紋章・城のことを考えて過ごすことができてなかなかよかったです。唯一つ、少し元気になってからは病院を抜け出して、本屋で西洋建築史を探したいという欲求を抑えるのが大変でした(笑)。
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horaice at 2006-10-19 21:28
miriyunさん なんだか私の大学院生の先輩と傾向がよく似てらっしゃって、微笑んでしまいました:-) その方も、入院中時間があるので何かしたくて、本をどっさり病院に抱え込み、私の卒論の相談までのって下さいました。
病院は、miriyunサンのような人とって何か追究したくなる空間を与えているのでしょうか:-)) 不安をも忘れさせる課題となってよかったです;-) 早くお体の調子よくなるといいですね☆ また何か気が発見があれば、いつでもコメント下さい~よろしくお願いします。
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miriyun at 2006-10-21 07:02
horaiceさん、そうですね。知らないことを探求したりするのはワクワクする感じが、好きですね。とくに歴史は推理小説を読んでいて、途中で点と線が繋がった・・・のを発見できる醍醐味みたいなものがあります。
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