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2006年 05月 13日

「キングダム・オブ・ヘブン」と史実

 先日、サラディンが登場しているときいて、『キングダム・オブ・ヘブン』という映画をみた。公開されたのは一年も前なのでずいぶん遅いのだが・・・
 
 映画というものは実在のサラディンなどを少し登場させながら架空の人物だらけでお話をつくっているものだろうと思っていた。

 確かにいかにも映画仕立ての話もある。バリアンがもと鍛冶屋として育ち、ゴッドフリーという貴族の父が突然現れること、妻を失った独身として描かれ、王女シビラと親密になっていくところは架空の話だ。また、モロッコが撮影地であったため、大シリアにはこんな砂漠はないのにエルサレム近郊の海岸にモロッコの砂漠が出現していたりする。

 しかし、そんなことは映画ではよくあることで、それよりこの時代の十字軍のとらえ方や欧米からみたサラディンをどんな人物として描いているものかが気になった。
 見て驚いたのは主人公のバリアンをはじめ主だったる人物がそのまま、あるいはモデルとして名をかえて登場していたりしていたことだ。かなり丁寧で良心的な歴史劇になっていた。
 
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↑昔ながらの十字軍の荒々しい虐殺・略奪をよしとするルノー・ド・シャティオン 

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↑シビラの夫でボードワン4世の跡を継ぐことになるギー王

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↑歴史上ではレイモン伯、映画ではティベリウスという領地の名をつけていた。ボードワン4世の摂政も勤めた人物。サラディンとの和平推進派

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↑若くしてハンセン氏病にかかり、病と闘いながら、高貴な精神の王とアラブ側からも称えられたボードワン4世

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↑主人公バリアン


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↑サラーフッディーン(サラディン
                (写真は映画ビデオより引用)

その他、シビラ、サラディンの不敵な弟など実在の人物が次々と登場してくる。

*若干できごとの順番や人物を入れ替えたりして入るが、和平派のレイモン伯やボードワン4世の苦悩・エルサレムの城攻めの様子などがつぶさに見て取れる。

*そして、サラディンの人柄、寛容さ、それにボードワン4世のあらわし方がなかなかよい。また、サラディンとバリアンを通しての騎士道も短時間にしてはよくまとまっていた。
 
この時代に興味のある方にはおすすめの映画だ。この映画のリドリー・スコット監督の正攻法の演出は好感が持てる。彼も十字軍資料や当時の記録者バハー・ウッディーンらの記録・現代の「アラブが見た十字軍」などを熟読したに違いない。
サラディン関連の本を見ながらでも大きな違和感なく楽しめる、上出来の史劇といえる。
 
                                                                                                                                                                                                           
                                       
                                                    
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by miriyun | 2006-05-13 19:27 | サラディン紀行 | Comments(10)
Commented by amikajpn at 2006-05-14 23:41
今晩は。十字軍て、日本じゃ西洋史のほんの一部として、しかもヨーロッパ側からしか習いませんよね。少なくとも私が習った頃はそんな感じでした。
あと私が覚えているのは、ロビン・フッドの物語に出てくる獅子心王とか!(笑)
アラブから見た十字軍、興味あります。この前の記事に要約(?)があるみたいなので、又読みに来ます。今日は取り急ぎ。
この映画も見てみたいです。
Commented by makku at 2006-05-15 00:15
こんにちわ。今まで何度か見させてもらいましたが、いつも充実した内容で驚いています。
「キングダム・オブ・ヘブン」は私も最近見ましたが高校までの歴史の授業ではこのような歴史的事実があったことなど教わらなかったのでフィクションの物語だと思っていました!!
miriyunさんは詳しい登場人物や流れを史実と照らし合わせていてとても勉強になりました。今後ともちょくちょくのぞかせていただきます(^-゜)ノ
Commented by アリーマ at 2006-05-15 19:46
久しく映画にはご無沙汰だったのだけれど、この頃また戻ってきつつあります。リドリー・スコットですか!さすがですね、やっぱり。リドリー・スコットで、miriyunさんのご推奨ならば、ぜひ観なくちゃね。
Commented by miriyun at 2006-05-16 19:18
amikajpnさん、ほんとうに日本での歴史の扱いは改善されてはきましたが、まだまだ西洋史観によるものが多いので、そうではないんだということがわかると目が開かれるような気になります。
 時事問題にもつながってくるので多角的に見るのって大事ですよね。難しいけれどいろいろな面から見れるように勤めて生きたいと思っています。
Commented by miriyun at 2006-05-16 19:25
makkuさん、ようこそ。フィクションが多いのだろうと私も想像していたんですよ~。でも、サラディン紀行を書いていたので一度は見ておこうと思ったんです。映画を見て主人公は鍛冶屋だし、架空の人物と思い込んでいたら、歴史上のバリアンでワーーッという感じだったのです。
 これからもぜひ感想をコメントしてくださいね。
Commented by miriyun at 2006-05-16 19:36
アリーマさん、リドリー・スコット監督いいですよね~。『グラディエーター』がお気に入りです。いい作品は何度も見たくなります。
 『キングダム~』はバリアンが主役ですがサラディンとボードワン4世のいぶし銀のような存在感がいいです。細かなところは気にせず(中東に詳しい方はいろいろ気づいてしまうかもしれませんが)、ざっくりと見ていただくといいと思います。
Commented by アリーマ at 2006-05-16 21:26
私は古いですが、やっぱり『ブラック・レイン』と『誰かに見られている』が好きです。ちなみに『キングダム~』は面白そうなので、DVD注文してしまいました。
Commented by miriyun at 2006-05-18 06:56
え~! DVD買われたんですか? うらやまし~。私は貸ビデオを2回借りてみました。衣装もみごたえあり、映像としてきれいです。カメラアングルも監督らしさが出ているのではないでしょうか。
Commented by マリリン at 2006-05-22 09:26
今まで興味がなかったのですが、記事を見て興味が沸きました。。マリリンも早速探して見ててみようと思います。

又来ます  ポチッ
Commented by miriyun at 2006-05-24 04:50
史実とあわせてみると映画もまた違う楽しみ方ができますよね。


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