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2019年 08月 22日

詩人でもあったスルタンスレイマン

1.スレイマン1世は色々な呼び名を持つ    

 オスマン帝国の帝位は連綿と血筋において36代にわたって繋がりを見せるが、その長い歴史の中で長く人々の記憶に残っているのは、7代メフメト2世(1444-1446,1451-1481在位)と10代目スレイマン1世(1520-1566在位)と言える。

 ビザンチン帝国は、陸には長い城壁、海には船の侵入を大鎖で阻み外敵を寄せ付けない大国であったが、メフメト2世は1573年にオビザンチン帝国を滅ぼし、コンスタンティノープルをイスタンブールに改めオスマン帝国の礎を築いた勝利者でメフメトは「征服の父」「2つの海と2つの大陸の支配者」という称号を用いた。
 
 10代スレイマン1世の治世は46年間も続いた。13回の遠征を行い、軍事的に数多くの成功を収め、彼の時代はオスマン帝国の最盛期にあたる。
 壮麗王(the Magnificent)と呼ばれ、日本ではスレイマン大帝と称されることが多い。また、軍事面だけではなく、法典の編纂を行い、帝国の制度を整備したことで立法を行った皇帝という意味で「カーヌーニ」と尊称される。スレイマンという名は、オスマン皇帝の家系図にスレイマン2世をはじめ、皇族にその名が複数登場するが、カーヌーニというだけでスレイマン1世のことだと分かる。

 

2.スレイマンは才ある人を登用    

 スレイマン1世は長く治めただけではなく人を見る目が合ったと思われる。元の身分にかかわらず、優れた才能を愛した。

 スレイマン自身が皇子であったころにパルガ人で漁師の子であったイブラヒムを見出し、のちに大宰相に抜擢した。イブラヒムはのちにパルガル・イブラヒム・パシャと呼ばれる。
 軍事戦略で、工兵隊を使ううちに、ミマール・スィナンの困難な課題を次々とクリアして、戦勝に寄与する才能を見出し、スレイマンの治世で皇帝のモスクや廟建築もまかされ、それ以後5代にもわたってスルタンにつかえ、生涯を通してトルコの偉大な建築を作り続けた。
 海賊出身のフズル・レイスを海軍提督バルバロス・ハイレッディンとしてとりたて、その結果地中海の制海権を握った。

2.スレイマンは
オスマン帝国外伝で、スレイマンは日常的に金と宝石の装飾品を趣味のように作っていた。実際それをよくやる人だったのだろう。もうひとつ、ハレムの中で女性に対して詩の一節をささやいたり、一人で思考するときの言葉がとても詩的だったりする。
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さらに、スレイマンは、「おお ムヒッビー、かくも太陽に惹かれるならば~」とつづける。


このドラマを通してたびたび出てくる「ムヒッビー」という言葉。

更に、側室フィルーゼとのやり取りで
フズーリー、ルーミー、サアディ、シーラーズのハーフィズと女性がつぶやき、突然
「かの人の光の輝きに我を忘れ」とハーフィズの詩を唱え始めると、
すかさず、スレイマンが「恵みの栄光の酒杯より聖水を与えられた」とその続きの句を続ける。
そんな場面が先日の放送の中であった。教養ある人はハーフィズの詩などを暗記していて、ここぞというところで自然に出てくる。
これは日本でも平安貴族の恋の歌にも通ずる。そういった素養がないと気の利いた返歌も返せず恋も成就しない。国は異なってもそういう詩や歌を素養としているのだ。

しかし、スレイマンの素養はドラマのだけのことなのか。

実はこれは本当。
ムヒッビーは「恋する人、愛の人」のような意味で、その名前をもって詩を書いていた。

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↑スルタンスレイマンの詩集
(写真は「Three Great Civilizations in Turkey 」より引用)

それぞれの右上の装飾文様の中に、名前がある。
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花に飾られた枠の中。その最下段に、右から
スルタン スレイマン ハーン(このハーンはチンギスハーンのハーンと同じで、オスマン帝国では尊称の一部をなす)とある。
書いたのは書家と細密画家であろうが、スルタンスレイマンの詩集 ムヒッビーの詩集は現存しているのだった。

スルタンは厳格な軍人であり、統治者、法の支配者でありながら、
詩の心ももつ多彩な人だったと思われる。
                                                                                                                                                                                                           
                                       
                                                    
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by miriyun | 2019-08-22 20:50 | トルコ | Comments(4)
Commented at 2019-08-24 18:22
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by petapeta_adeliae at 2019-08-25 22:31
スレイマンは詩集まで出していたとは驚き。
フィルーゼとのやりとり、まるで百人一首かと
笑ってしまいました。でも背中がこそばゆくなる
言葉の羅列。頻繁に出て来るムヒッピーが気になっていたところでした。
15世紀にハーフィズの詩は瓦版のようにして
情報伝達したのでしょうか ね?
Commented by miriyun at 2019-08-31 09:21
鍵コメ様
お返事遅くなりました。図録の日本名を思い出せなくて探していました。たしかトルコ三大文明展だったかと・・。たぶんなので、購入せずに図書館などで確認してみてください。
イブラヒム、シーズン3でもハティジェへの思いをつぶやいています。軍人兼詩人のある人物もミフリマーフの気持ちを掴んでいます。
Commented by miriyun at 2019-08-31 09:41
ソーニャさん、今の恋愛表現に比べると確かにこそばゆく・・・わかります!
ましてや軍事・政治面におけるスレイマンや大宰相の厳格さを見た直後に、ロマンと熱情の詩とかとか熱いです。ハーフィズはシーラーズから出たことのない詩人ですがペルシアのみならずヨーロッパに至るまで好まれていたようです。


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