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2013年 06月 09日

本田孝一「砂漠とアラビア書道」NHK心の時代(2)

 サウジアラビアの荒涼たる砂漠の中で、人はいったい何を感じてくるのだろうか。
単純に、何もない!炎天の地とおもい、二度と訪れない人もいるかもしれない。
しかし、砂漠には命にかかわる厳しさもあり、また人を惹きつけてやまない美しさもある。
 
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本田孝一「砂漠とアラビア書道」 (2)
前回の記事の最後に本田氏が砂漠で得たものを書いた。

それが人生の転機になった、アラビア語・アラビア書道・大いなる砂漠や自然との遭遇

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その砂漠で得たものを帰国後、自分の創作したいという若いころからの思いと合わせ独自の活動をしていった。

1.アラビア語
二度のサウジアラビア渡航の後、地図会社では次第にデスクワークが多くなり、それが合わないと感じた本田氏は1978年には測量会社を退職してしまう。そして、身に着けたアラビア語で翻訳や通訳としてやっていきたいと考えた。

 (このころ、氏はアラビア語の本を出版している。「たまいらぼ」という出版社が出したもので、アラビア語教本というのは文字が小さくて読みにくいのが一般的であったのに対して、この教本はA4番の大きい本でアラビア文字が大きな文字で表わされ、初めて独習するものにとってわかりやすく書かれていた。当時、アラビア語を独学したいと思って本を探していた自分はこれを有隣堂で見つけたときこれだと大喜びで購入した記憶が今だ鮮明である。
 そして、のちにはやさしいアラビア語とその続編・辞書2冊の出版、大学アラビア語講師から教授へとアラビア語の世界でその地位も確立していく。)


2.アラビア書道とコーランと
 また、アラビアの文字に魅せられた氏は独学でこの書道を用いて作品作りをし、それを聞きつけた企業や大使館からロゴデザインなどの依頼を受けるようになる。
 実は日本の中のイスラーム関係の団体ロゴの中には本田氏デザインのものがかなり多く見受けられる。

 ところが、氏は自分のやっていることはレタリングではないかと疑問を持つ。本当に美しく書くにはどうしたらいいのか。次第にアラビア書道の占める意味が大きくなっていった。コーランというものに見合う形で美しく書かなければならない。そこまで宗教と文字が一緒になっているものは他にはない。

◆コーランは日常使う言葉で深いことを言っている。
  (例)  神様はすべての光だ・・・という言葉がある。

 違和感なく結びつく言葉。太陽の光以外の物でもあるのではないか。深い意味を感じてしまった。

20代で悩んでいたような疑問・・・コーランの中で違う形で書かれていると感じた。
向こう(サウジアラビアの砂漠)に行って身を置いていたからこそ分かる。
説得力があって、私こそが伝えなければいけないと感じた。



3.アラビア書道の厳格な書法を知る
 そうしたとき、1988年、思いがけずイラクの国際フェスティバルに書家たちが集まるのに招待された。初めての一流の書家たちとの交流となる。


 意気揚々と持参した本田氏の作品を前に各国の書家は厳しい助言をした。ルールに見合っていないなど指摘された。その技法や筆のつくり方や墨についてなど質問をする。
 その中で書家のアッバースさんは自分の作り方を教えてくれて参考になった。

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                                 ↑ ハッサン・チェレビー氏
 また、書家たちはきちんとした文字を書くことができるように伝統的な書を学べるようトルコのハッサン・チェレビー氏を紹介してくれた。ここから添削を通じた師弟関係ができるのであった。
 手本が一枚渡され、その通りに書けばいいのだろうと送付するとすべての文字が直されてしまった。

わかったのはアラビア書道はすごく厳格だということだった。

◆ではなぜ、厳格なのか?
そういうことをしないと厳格な形が伝わらない。1000年以上書けて洗練されえた伝統であり、一人の書家が書を書くのはたかだか50年ほど。そんな書家たちが好きなように変形していったら、洗練された文字が伝えられなくなってしまう。だから100%同じに書けなければいけない。それを知ったうえで見るとこれまでの作品が火が出るほど恥ずかしいと思うようになる。これまでは漠然と見ていただけだったとわかった。



4.独自の作風へ
 アラビア書道には伝統的装飾があり、テズヒーブと言われる装飾は一般的に装飾家が書き、書家は書だけを書く。器用な本田氏は、テズヒーブもやっていたが、一つの作品の装飾をするのに2か月もかかる。
 確かに伝統的な装飾はきれいだが同じことをやって意味があるのかという疑問が出てきた。そうするともうかけない。そこで思いきり装飾を取り外したら字だけが前面に出てきた。
書く言葉の意味を自分で咀嚼してそのイメージの形を装飾のかわりに書こうとした。

 こうして、氏の作品は独特の作風に変化していった。
1991年 銀座で初のアラビア書道の個展を開く。

これを機にアラブ諸国から招待状が次々と届いた。
1992年カタールのドーハで個展
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初めての海外での個展であるカタールのとき、果たして自分の作風が受け入れられるかが不安もあった。
その作品展に来てくれたアラブの人の反応
 「今までに見なかったような書道作品だ」といってくれた。
 「お前はアラビア書道に革命を起こした」とさえ言ってくれた。
そとがわにいるからこそ、伝統に束縛されない。コーランに基づいた書道をこのように表現する人がいるんだ。
本田氏のイメージは理解された。

1993年 エジプトで個展
1994年マレーシアで個展

20代で何かを目指しながら回答のないまま過ごしたのが、こうして無駄ではない人生へとつながり、独自の創作作品をつくるようになった。
アラビア語を自在に使うようになったからコーランを深く理解できる。
そして、アラビアの砂漠で過ごした時間があるからこそ、その言葉に合ったイメージが次々と湧いてくる。

 
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コーランの言葉を自分なりに咀嚼したときに、ことばが押し寄せてくる。
それをとらえるのが宗教であり。芸術である。


5.イジャーザ(アラビア書道師範としての免許皆伝)
2000年アラビア書道の師班となるイジャーザを師であるハッサン・チェレビー師から授かる。
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          ↑ イジャーザとその授与式

こうして、名実ともに日本で唯一のアラビア書道師範であるアラビア書道家が誕生したのである。イジャーザを持つものは弟子をとり、イジャーザを弟子に与えることもできるということになったのだ。

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大英博物館が所有している本田氏の作品「神の顔」


6.自らの生き方
自らの生き方を示してくれたアラビア書道
      ・・・その奥深い魅力を伝え作品をつくりつづけることが
                   何よりも恩返しだと考えている

                            アラビア書道家
                             大東文化大学教授   本田孝一


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*NHKの再放送も終わったので、画像の一部をより鮮明なものに入れ替えてかきました。
世界での評価は高くても国内ではまだマイナーな分野である作品をきちんと紹介しつつ、
テーマの人生と宗教に収まっていくあたり、
   さすがはNHKの取材と編集だと思いながらまとめさせていただきました。(m)

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by miriyun | 2013-06-09 16:10 | Fuad Kouichi Honda | Comments(4)
Commented by shintaromaeda at 2013-06-09 22:35
お久しぶりです。
もっと早くこの番組のことを知っていたなら録画してみることがで来たの見逃したのは残念に思いましたが、前回と今回の記事でどの様なないようであったかを知ることが出来ましたので、大変ありがたく思っております。
Commented by 谷間のゆり at 2013-06-10 14:12
本田氏の放送が有ると知ったのは、放送日の午後5時過ぎ。一寸遅かったと残念でしたが、NHKのホームページの再放送希望にチェックしました。メールで知らせてくれるらしいです。
Commented by miriyun at 2013-06-12 06:25
shintaromaedaさん、人生の転機、自然と宗教や芸術との接点など、いろいろな点について考えさせられるものでした。
アラビア書道に関心を持っていただきありがとうございます。
Commented by miriyun at 2013-06-12 06:27
谷間のゆりさん、再放送希望って出せるんですね。
それはありがたいことです。
砂漠というものが、こんなに人生に深くかかわることがあるのだとつくづく感じています。


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