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2013年 01月 31日

本田孝一氏作品*今度はクリスティ ーズで(1)

1.クリスティーズ(Christie's)とは 
 世界的競売オークションの世界でサザビーズとともに覇を競うオークションの殿堂がクリスティーズだ。

 クリスティーズは1766年に美術商のジェームズ・クリスティーによってロンドンに設立され、すぐに第一級のオークションハウスとして名声を得ている。
 サザビーズよりもさらに市場占有率も高く、収益から見ても世界でもっとも規模の大きく活発なオークションハウスである。競売場はニューヨーク・パリ・シンガポール他世界各地に展開しており、2007年にはドバイにも進出して、湾岸産油国での注目を集めている。

 クリスティーズはパブロ・ピカソ、レンブラント、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ゴッホ、ナポレオン ボナパルト、マリリン・モンローほか、歴史上の人物に関連した芸術品や個人の財産を競売にかけている。
 最近では、イギリスの上院議員であり作家であったジェフリー・アーチャー氏が所有財産を自分の小説にも登場させているクリスティーズでチャリティー競売にかけている。
また、日本の物では運慶作の木造大仏如来が落札されるなど話題性のあるオークションでもある。



2.本田孝一氏『青の砂漠』がクリスティーズで落札!!      
 近年の本田孝一氏のアラビア書道作品はその多くがマレーシアのイスラムアート美術館におさめられている。
 それらの作品群の中から1点、代表作『青の砂漠』が、2012年ドバイでのオークションに出品された。
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◆オークション名:Modern & Contemporary Arab & Iranian Art&Turkish Art (近現代、アラブのイランとトルコアート)PartII
本田孝一氏作品*今度はクリスティ ーズで(1)_c0067690_632583.jpg

          ↑ (1クリックすると、大きい画像で見ることができます)

Fuad Kouichi Honda
Fuad Kouichi Honda (Japanese, B. 1946)
Surah Luqman (31:1-34)
signed and dated 'K.F.Honda 1999' (lower left)
acrylic, paper collage, Indian ink and silver paint on paper
89 x 63¾in. (226 x 162cm.)
Executed in 1999

本田孝一
ルクマーン章1-34節
署名と日付 K.F.Honda 1999(左下)
アクリル絵の具、紙のコラージュ 墨とシルバーペイント
226 X 162cm
制作 1999年
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◆落札された後の収益の寄付
マレーシアのイスラムアート美術館が出品したもので、イギリスのチャールズ皇太子の伝統芸能学校に寄贈されることが決まっていた。

◆カタログでは35000-45000ドルで、そこから競売になるのだが、56250ドルで落札された。


3.現代アラビア書道の評価の行方
① オークション
 日本の古代の仏像や浮世絵・障壁画などの古典類はよくオークションにかけられるが、現代・近代ものではなかなか評価されにくいものだが、アラビア書道のアートで、本田作品はサザビーズに続き、クリスティーズでも高い評価を受けた。

イギリスの作家が好きだった自分にとって、クリスティーズやサザビーズという言葉だけで紳士たちが集まり、手慣れたスタッフと場に馴染んだ顧客の空間に迷い込んだような憧憬を感ずる。


② 現代アラビア書道の評価
 しかし、アラブ世界におけるこのような作品の評価はまだ始まったばかりであって、昔からのテズヒーブで周囲を囲った小さな作品群から、ほとんど抽象画のような文字作品、そしてデザインは大胆で文字は伝統書法の本田流などの作品が様々な絵画と一緒に出品され、評価対象の作品の動向を見ているようにも感ずる。
 そして、もちろん収集家次第であり、本田作品も一定の評価を二つの世界を席巻するオークションハウスで得たことになる。

 だが、青の砂漠に関してまじかに見てきたうちの一人としておもうのは、まだまだ書の世界の評価は発展途上であり、十分にこの書を世界が評価しきれていないように思う。
 

4.『青の砂漠』*私感*
  『青の砂漠』の砂丘を見ていただきたい。
この砂丘の連なり・・・。
一つ一つの砂丘のうねりごとにそこにあった書体でのコーランの文言が華麗にデザインされている。

 ◆書はオリジナルデザインができるまでが最も時間をかける。
おおよそのデザインができてからも筆の太さと空間の開け方などで修正を重ねる。
それぞれの砂丘自体が作品になるほどに詰める。
さらにそれらが集まったときの文字のバランスを見て、また砂丘であるからその砂丘としてのうねり感や調和も要する。

 ◆そして、色の問題もある。
色はくせものだ。
どんなに素晴らしい書もたくさんの色を使えば過剰な色に翻弄されて書が溺れてしまう。

 だから、あまり多くの色を使わずに作成すれば間違いないというのが自分なりに分かってきたことだ。
ところが、本田作品の中でも砂漠作品は色をたくさん使っている。
   
 この作品はいったいどの色をどのように使っているのだろう。自分の知っている色を脳裏に描きながら、この作品をじっと見続けたことがある。一言でいえば青系ということで『青の砂漠』なのではあるが、じっと見るとそこには多彩な色の世界がある。

 ・作品の色味に近い色 
 ライラック・ブルーバイオレット・コバルトブルーウルトラマリン・プルシァンブルー・  ターコイズブルー・
 キプロスかナイトブルー、ブリリアントブルー、 ブライトアクアグリーン、ライトグリーンオキサイト・・・などを想像するが、
   フ~ッ、限界だ、砂漠の中にまだまだ色が隠れていそうだ。
              空の部分など全く分からない。

 こんなにたくさんの色を使いながら『青の砂漠』はできている。

◆使われた色の数々が何層もの砂のうねりを表しつつ調和する。
その中に右上のバスマラから始まる章句がそこに在る。

  砂丘のとがった形にあわせた重厚感のあるスルス書体
     砂には重さだけでなく軽やかさもあると感じさせてしまうナスタアリーク書体
        砂の質感を体現しているジャリーディーワーニ書体、

   そのジャリーディーワーニーの末尾で、
      装飾的に線が延びそして消えていく様は、風に吹かれた砂のよう・・・

本田孝一氏作品*今度はクリスティ ーズで(1)_c0067690_12232874.jpg
  


           
これだけ複雑なデザインとたくさんの色を使いながら  
      アラビア書道の 『 書 』たる存在感を示した作品
・・・そう思っている。


*だからこそ、同じ:Modern & Contemporary Arab & Iranian Art&Turkish Artに出品された作品群のうちで見ると、まだまだ評価されきれていないように感じたりもしたのだった。

今回のオークションはケンジントンではなくドバイを舞台とするものだった。帽子とステッキの人ではなく、アラブ服の人の方が多いのかもしれない。
本田作品の中でも代表作品であるこの作品は、どこの誰に落札されたのだろうか。落札した人は運がいい!
       遠目に見ての美しさを堪能し、
             近づいて砂漠のコーランの章句に浸る

                      こんなことのできる作品なのだから・・・。

 
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by miriyun | 2013-01-31 06:59 | Fuad Kouichi Honda | Comments(4)
Commented by petapeta_adeliae at 2013-01-12 23:15
本田先生の書は心の安定感が現れ、癒してくれる色づかいですよね。
クリスティーズで落札されるなんて本田先生の力量に敬服する
ばかりです。
Commented by miriyun at 2013-01-13 23:27
ソーニャさん、砂漠をこれだけの色で染め上げていくのはとても挑戦的なことだと思うのです。
が、それをソーニャさんが感じ取られたように
癒し系の色でまとまりと安定感まで感じさせているところがさすがの作品でした。
Commented by jasmine-boo at 2013-01-15 15:14
なんてきれいなブルーなんでしょう!とため息をついてよく見ると、カリグラフィーじゃないですか!
しかも、ひとつひとつの砂の盛り上がりの字体が違って!
イスラムでは青は特別ないろですものね。
書いてあるコーランの内容と字体ともリンクしているのでしょうか?
本田さんの作品はドバイの作品展で見たことがあります。
遠くからたくさんの作品を見たときに、すごくインパクトがあって、名前を見たら日本人名だったので、びっくりしたのが第一印象でした。
Commented by miriyun at 2013-01-17 16:48
jasmineさん、ドバイでご覧になったのですね。確かに伝統的なテズヒーブで飾られたカリグラフィーとは全く異なるいんぱくとがあったことでしょう。
湾岸での人々の反応をみてみたかったですね〜!^_^
ひとつの章を完結させていて、節ごとに砂丘のかたちにデザインされているものです。色は単一の系統ではなくて実は多彩です。


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