2011年 09月 17日
王家の保護 アブダビのシェイク・ザーイド・ビン・スルタン・ナヒヤーンは、現在当たり前に言われている持続可能な開発の概念を提唱した人物で、水資源管理システムのプロジェクトを1946年に発動し、国土の緑化プロジェクトを始めた。詳しくはまた別の機会にしようと思うが、野生動物に関する考え方だけは今書いておこう。彼は生物多様性を保持するために狩猟を非合法化した。アブダビの地名の由来であるガゼルはもちろん、アラビアン・オリックスをはじめ絶滅危惧種から鳥たちまで彼の保護区で保護された。 また、シェイク・ザーイドと常に共同歩調を取ったドバイのシェイク・ラシード・ビン・サイード・アル・マクトゥームは1960年にはドバイ初の保全プログラムを開始した。 このようにシェイク・ザーイドやシェイク・ラシードのように将来を考え野生動物を保護している王家が規模こそ違うだろうがいくつか存在したのは確かだ。また、動物園の中にはオリックスを飼育しているところもあった。 ワールド・ハード(世界の群れ)計画・・・オリックス作戦 1960年までは各地に野生のアラビアン・オリックスがシナイ半島からイラクまでで数百頭となった。この広い地域で数百頭ということはもう、絶滅の時期が目前まで迫っていた。 1960年代、WWF(世界自然保護基金)や動物保護ロンドン協会・自然保護団体フローラ&ファウナ自然保護協会などが中心になってアラビアン・オリックス救助作戦が行われることになった。 生き残りのオリックスがこの計画に沿って集められた。オマーンから3頭、ロンドン動物園から1頭、クウェートから1頭、サウジアラビアから4頭の計9頭を集め、アメリカに送られた。つまり、このプロジェクトのスタートは各国から集められた9頭から始まったのだった。ドバイものちにオリックスやその他の絶滅危惧種をアリゾナに送り出した。 送り先はアリゾナのフェニックス。そこを選んだのは自然環境がアラビアの砂漠にとくに似ていることから選ばれた。絶滅に瀕している動物のための最初の国際的プロジェクトが始まったのだ。 そこで集められたオリックスは繁殖に成功した。伝染病などによる全滅を心配して、サンディエゴ野生動物公園にも分けたり、同じ遺伝子が揃いすぎないよう、動物園や保護区同士で一部を入れ替えたりしながら個体数を増やしていった。 アラビアへの「再導入」作戦 実際の野生種絶滅よりも10年も早くスタートしたこのワールド・ハード作戦により、十分に数が増えてきたところで、本来の生息地アラビア半島に帰す作戦が少しずつ始まった。 ① ヨルダン 1978年にヨルダンに4頭導入されたのは群れが小さくて繁殖に至らなく、失敗したようだ。1987年に11頭導入されたオリックスはショーマリ自然保護区で200頭まで繁殖に成功し、2002年にはワディラムの特別な地域に野生として復帰させる作戦を行うまでになった。また。他のアラブ諸国への再導入にも力を貸している。 ② オマーン 1982年までに14頭を再導入したオマーンは、ジダッド・アル・ハラシース平原のなんと2万7500平方キロメートルをオリックスを保護し繁殖させるための地に選んだ。マスカットから飛行機で1時間のサラーラから車でさらに200㎞という奥地である。ここはArabian Oryx Sanctuaryと呼ばれ、世界遺産登録された。1994年のことである。ここで14頭だった導入個体は1996年で400頭まで順調に増えて、まさにOrixのSanctuaryとなった。 !!普通はこれで話が終わるのだが、そうはいかなかった!! このあと、首都から遠い果てにある世界遺産地区は密猟が激しくなり、政府の取り締まりは不十分なものであった。そのため1999年には85頭にまで激減した。2007年には追い打ちをかけるようにオマーン政府は保護区としての設定区域の90%削減を発表した。 これによりオマーンの世界遺産Arabian Oryx Sanctuaryは世界遺産委員会によって、顕著で普遍的な価値が失われたことを理由に世界遺産登録から抹消された。世界遺産の登録が抹消されるのは歴史上初めてのことであった。 ③ サウジアラビア 199年に再導入された。 「国家自然保護・育成協会」の基本プロジェクトの一つであるアラビア・オリックスを自然に帰すプロジェクトにより、オリックスが元々生息していた地域に大きな自然保護区が設けられ、飼育小屋が多数建てられ、繁殖したのち自然保護区に放たれ、660頭を超えるにいたった。(参考:アラブ・イスラーム学院・アラビア村) 生息地としてはウルク・バニ・マリッド保護地区、マハザット・アズ・サイド特別自然保護区がある。ただし、観光は許可されていない(参考:「恋するサウジ」郡司みさお著) ④ UAEドバイ ドバイのシェイク・ラシードが送り出したアラビアン・オリックスを、35年後に彼の皇太子シェイク・ムハンマド・ビン・ラシード・アル・マクトゥームはドバイにオリックスを再導入した。 その時、彼自ら砂漠の中で国内最大の地下水供給地のひとつでもあり、砂丘が広がる景観のよい地域を見つけ土地を手に入れ、野生動物保護活動のできる土地を選び出し、そこに導入したのだった。 単なる経営でない。自分の父と、アブダビのシェイク・ザーイドの多様な生物を環境保護をしたうえで残していこうという理念のもと、自ら足を運び、陣頭指揮をして作り上げた場所で、現在アラビアン・オリックスは順調に増えて200頭にもなり、平和なたたずまいを見せている。 その場所は彼が考えた野生動物保全のための地区であり、かつきちんと管理し、そのための費用もねん出できるアル・マハという場所をつくった。 アラビアン・オリックス絶滅の危機を乗り越えて 2011年6月16日、IUCN (国際自然保護連合)は絶滅危惧種のレッドリスト最新版を発表した。 レッドリストは、大まかにいうと、次のような分類になっている。 ===レッドリストによる保全状況の分類=== ≪絶滅≫ 絶滅(EX) 野生絶滅(EW) |--------1972年 ≪絶滅危惧≫絶滅寸前(CR)・・(絶滅危惧IA類) 絶滅危惧(EN)・・(絶滅危惧IB類) 危急(VU)・・・・・・(絶滅危惧II類)―――2011年 ≪低リスク≫ 保全対策依存(CD) 準絶滅危惧(NT) 軽度懸念(LC) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ いったん、1972年に野生絶滅(EW)になったアラビアン・オリックス。 それが、現在はアラビア各地の生息地で個体数をふやし、少なくとも1000頭を超えると言われている。 これにより、ICUNは前回の評価、絶滅危惧IB類(EN)から、絶滅危惧II類へとランクアップした。 レッドリストが始まって以来、 野生絶滅(EW)から3つ上のランクまで評価を回復したのは初めてのことであった。 試行錯誤を繰り返しながらであるが、このように大成功をおさめたは、保護団体・各国政府・動物園が連携し、国際的プロジェクト、『世界の群れ(World Herd)』計画で、種の保存に取り組んだ成果だった。
by miriyun
| 2011-09-17 18:31
| 動植物
|
Comments(2)
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なな
at 2011-09-17 19:27
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オマーンの事例は興味深いですね
密漁が純粋に娯楽としてのハンティングだったのか、売る為だったのか? 買いたい人がいれば売る人がでてくるのは当たり前ですが。 剥製の値をつりあげるために『希少』にしたのかなぁ? IUCNのサイトでファクトシートをちらっと見てきましたがuncontrolled huntingとしかなくてわかりませんが・・・成功事例という扱いなのでこういった話があったとは! 貴重な情報教えていただきありがとうございます
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miriyun at 2011-09-19 01:09
ななさん、世界遺産にまで指定され、400頭まで数を増やしながらも、
密漁や狩猟の対象として狙われることがなくならないのだということを痛感させられることでした。 残念ながら世界遺産登録の抹消はしかたなかったですね |
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