2009年 03月 20日
第996話 古来、泉や水道施設は絶対的な価値を持つものであり、為政者がそれを民のためにあたえたりするのはもちろんのこと、イスラームにおける豊かなる者や、ゆとりあるものが設備をモスクに寄進したり、広場に備えたりするのはよく行なわれることである。 そして、あのインドという国でも巨大な地下水道設備があることでわかるようにたいへん大事なものとして考えられている。 横浜、山下公園の北側にドーム屋根と石で築かれた塔がある。そばによって見ると異国の雰囲気が漂っている。これはインド水塔と呼ばれる。 ◆インド水塔の由来 横浜は、1858年に日米修好通商条約で開港が決まり、翌年1859年に開港した。だから今年2009年は『横浜開港150周年』なのである。開港以来、イギリスを始めいろいろな国の人々が行き交い居住していた。しかし、考えてみよう。今の日本とは異なり、明治・大正・昭和前半における日本は開港した港で何を商いしたのか。 貿易品目は、もっぱら繊維製品であった。横浜の開港からわずか4年後には今の山下公園付近に「在浜インド商協会」を置き、インド人が商売していた。 初期にはイギリスが関税自主権のない日本に綿織物を持ち込み、日本の綿織物は壊滅状態になっていく。日本から売ることができたのは、生糸・絹織物・茶といったところであった。だから、今でも山下公園のすぐそばにシルク博物館なるものが当時の生糸の動向を歴史として残しているのだ。 ところが、それにあきたらぬ気概のある人物が現れてくる。以前に紹介したインドのJ.N.タタと日本のと呼ばれる渋沢栄一である。彼らが考えたのはイギリスに支配されているインドからイギリス船が間に入って綿花を運んできて日本に売る。これを直接インド航路を開き、日本の船が直接取引をすれば安く綿花を仕入れることができるようになる。 こうして、日本の産業革命の立役者であった渋沢栄一と、インドの現在のタタ・グループの祖であるJ.N.タタによってインド航路が開かれた。 それ以後、横浜でもこれまで以上にインド人商人が増えてくる。わたしたちが知っている以上に、インドと横浜のつながりは深い。 そこへ1923年9月1日の関東大震災がおそった。 街そのものが焼け野原となり、横浜に当時住んでいた116人のインド人のうち28名が震災で亡くなった。横浜市は街の復興とともに被災した在日インド人への援助にも力を注ぎ、住宅地などの手当てを行うなどした。 震災による瓦礫で山下公園を造成したのだが、その山下公園の一角に 1939年(昭和14年)、インド・コミュニティが9月1日の大地震の犠牲者を悼む記念碑として、また震災時に手助けしてくれた横浜市市民に使ってもらう感謝の心として横浜市に贈ったという。 中央のモニュメントが置かれているところはかって、水道があって、誰でもその水を飲むことができた。 現在は、衛生上の問題のため、残念ながら水道は市により止められモニュメントとしてだけ残されている。 ◆モザイク天井 実はここの天井が、とてもきれいでいつか紹介したいと思っていた。 近代になってからのモザイクはローマン・モザイクと異なって、材料は多彩である。 ここでは、ステンドグラス用の味わいのあるガラスのあいだにところどころに、ダイヤモンドカットのガラスも見ることができる。 単純な四角い背景用モザイクもよく見ると柔らかな色を何種類も使い、金をはめ込んだ金のガラスも使われている。 実に手の込んだ近代モザイクだったのだ。 天井の細工を見ながら日本とインドの歴史をふり返ってみた。 なお、タタ・グループなど、いくつかのグループが横浜においてさらに発展的経済関係を築こうとしている。もっとも、現代では綿花と綿織物ではなく、IT関係及びインド産低価格車での進出になるが・・・。 ⇒ ⇒応援クリックお願いします。
by miriyun
| 2009-03-20 15:24
| 日本
|
Comments(10)
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photoscene at 2009-03-20 15:40
横浜は実家がある町、とても興味深く読ませていただきました。
山下公園のインド水塔について、まったく知らなかった自分が恥ずかしい。石碑に刻まれた文字を読もうとしたことがなく、miriyunさんがUPしてくださった写真で初めて文章を目にした次第です。 次回、この場所を訪れる際には手を合わせて参ります。 モザイク、光が十分に入らない場所なのにすばらしい画像に仕上がっていますね! 横浜の中にあるインドを再認識させていただきました、ありがとうございます。
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何てきれいなモザイクでしょう!!
山下公園は何度も行ったことがあり、この水塔の近くを歩いたことがあるのでしょうが、インドとの関係や歴史も知らなくておそらく通り過ぎてしまったと思います。 天井にこのようなモザイクがあることは、なかなか気がつかないでしょうね。驚きです!ギリシャで習っていたときに大理石モザイクを幾つか製作した後に、ガラスにも挑戦してみました。石とはまた違った魅力があります。写真をよく拝見してみるとガラスに表情があるように見えるのは、ステンドグラス用だからですよね。ダイヤモンドカットしたもの、金などを使っている細かい部分もよくわかって勉強になります!
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JOE
at 2009-03-20 21:26
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orientlibrary at 2009-03-20 23:13
このモザイク、色合いがいいですね〜。下の2点の薄いパープルが好きです。
工業製品モザイクもきれいなものが多いですが、ひとつひとつカットしたものは、やはり味わいが違う気がします。そこがモザイクの魅力なんだなあと、あらためて感じました。
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Azuki
at 2009-03-21 00:58
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きれいですね~^^こうして大きくはっきり見させていただくと良さが分かります☆
物は違ってもこうした関係だったことをお互いに思い出せるよう交流を続けていってほしいです。
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miriyun at 2009-03-21 09:22
photosceneさん、興味を持って読んでくださってありがとうございます。
私達日本人はあまり天井を飾らないので見落としてしまうのですが、イスラームの建築文化ではは天井必須なので見る習慣になりました。 もっとも日本人でも秀吉は天井装飾が好きでしたが・・・。
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miriyun at 2009-03-21 09:27
さらささん、詳細に見ると材料がわかって、並べ方の特徴がわかるのでおもしろくなってきてしまいました。
薄暗くて自分の目では高い天井の中のダイヤモンド型などは見えなかったのですが、写真にするとそれがよくわかりました。 さらささんもガラスモザイク経験されたのですね。透明感があって、大理石モザイクとは違う魅力がありますね。
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miriyun at 2009-03-21 09:28
ジョーさん、こういうステキな物に歴史的エピソードがあると印象的で忘れがたくなります。
楽しんでいただけたらと思います。
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miriyun at 2009-03-21 09:34
orientさん、ステンドグラスはモザイク画面に繊細なグラデーションをもたらす効果があるのでいいですね。
orientさんがパープルがをお好きなようにどこかしら気に入った色合いがあるように思います。
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miriyun at 2009-03-21 09:39
Azukiさん、ここはもっと多くの方に見ていただきたいようなところですよね。震災はそんなに遠い日ではない筈ですが、次第に話題にも上らなくなるのも問題です。
インドはこの3月に横浜に正式にインド交流協会を発足させるようです。ますますインドと横浜近づきますね。そういえばムンバイと日本は姉妹都市ですからお付き合いが続いていますね |
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