写真でイスラーム  

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2008年 08月 01日

オスマン朝の象嵌細工…錆びない金の話(4)

さらに金の特色。
  「金は錆びない。」 

 この錆びないで美しい金を効率よく使ったものに金の象嵌がある。ずっと昔には線象嵌が中国かイラクかそういったところから始まったようだ。日本の古墳出土の古い剣もこの技法であろう。
 しかし土中に埋まっていると金は錆びないから残るが、周りの銅や鉄は錆びて崩れてしまう。その結果金の象嵌も崩れていることがある。

 象嵌には初期の線象嵌から現在の布目象嵌などいくつかの方法があり、周りが錆びないような工夫もされている。現在は主に布目象嵌という技法で作製されている。
 象嵌はDAMASCENE(ダマシン)と英語で表現されるが、ダマスカス発祥の象嵌技術でそれが東西に広がったといわれている。

 さて、象嵌の中で珍しい高く飛び出した象嵌を見たことがある。 
オスマン朝の象嵌細工…錆びない金の話(4)_c0067690_165056.jpg

↑軍事博物館蔵

オスマン朝のスルタン・セリム1世(在位1512~20)の剣である。剣の表面の地金より飛び出している厚みのある金をあえて象嵌している(高肉象嵌)。 文字はアラビア文字で、コーランの章句を表していると思われる。書体はクーフィー体。
オスマン朝の象嵌細工…錆びない金の話(4)_c0067690_21225236.jpg

 これは上の写真の続きで手元のほうにあたる。文字をまっすぐに並べるだけでなく円形の中に納めたり、囲まれた枠の中に入れたり自由自在に入れている。
 円のなかの高肉象嵌の外側にうっすらと見えるのは草木文様で、こちらは普通の象嵌。いかに普通の象嵌と高肉象嵌では印象が異なるかわかるだろう。

 四百数十年を経てなお、錆びない金は剣の中でくっきりと存在している。

オスマン朝の象嵌細工…錆びない金の話(4)_c0067690_1652940.jpg

                                    ↑トプカプ宮殿蔵

 さらに普通の象嵌の剣を見てみよう。これは切っ先のほうまで文字の金象嵌が入っている。ここまでくるととても実用に使ったとはとても思えない。儀礼用や贈り物用かもしれない。
 手元にはライオンの頭がつき柄頭にはエメラルドも付いている。刀身の手元のほうにはには繊細な植物文様、先端に向かってはびっしりとアラビア文字がナスヒー書体で入っている。

 文字文化の発達した国や地域では、武器にさえ文字を入れ込んでいく。とくにイスラームでは、そもそも「読め!」という言葉から始まっているので文字を読み書くことは 奨励されてきた。したがって、すべての工芸に文字は関係してくるのである。
 
 ◆それにしても金は文字を表すにおいて、古代中国の漢字象嵌もアラビア文字象嵌も自由自在に表現している。
 ではアラビア文字より更にやわらかい線からなる”ひらがな草書体”はどうだろう。

                                       
                                                    
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by miriyun | 2008-08-01 16:21 | Comments(2)
Commented by ぺいとん at 2008-08-02 23:49 x
枠の中、特に丸の中にアラビア語が入れられていると不思議な漢字のように思えるのです。  
剣のクーフィー体もぐるぐる繋がってラーメン丼の模様に見えてきます。 
暑さのせいでいつも以上にヘンみたいです、すいません。
Commented by miriyun at 2008-08-03 09:36
ぺいとんさん、文字は形を変えていろいろな形に描かれていきそうすると突然異なる国ののものと同じに見えることがあります。戦国大名の花押と、四角の中に入れられたアラビア語のカリグラフィーが同じに感じたことがあるのです。
 四角い文字が連なっていると、イメージがどんぶりになるのは日本人みなそうかもしれません。私も頭が暑いです。そしてPCも熱いです。


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