写真でイスラーム  

mphot.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
2008年 06月 21日

船は丘を越える(1)

◆メフメット2世は屈辱に震えた ・・・1543年4月20日のコンスタンティノープル包囲中の海戦の結果である。
 彼は寝もやらず考えた。金角湾を鎖で封鎖されている劣勢、操船技術が敵にかなわない劣勢、これらを何とか挽回しなければ全体の士気にも関わる。
 
◆明くる、4月21日・・・ メフメット2世は、早朝から指令を出していた。
 ジェノヴァ人居住地の城壁の東側に各部隊を集めて、ふだんも使っていた城壁の外側にある道を幅を広め、かたく地ならしをさせた。兵士たちには何のためかはわからない。部隊ごとに分担しての地ならしで、競争するかのように作業をしていくので早い。地ならしが終わるとその上に木材を並べていった。

◆4月22日 艦隊は丘を越える?!

 ① 動物の脂
 坂を上る道に敷き詰められた材木には動物の脂をどっぷりと塗る。
船は丘を越える(1)_c0067690_1415716.jpg

           ↑
② 台車に押し上げる
 車輪つきのそりのような台が一対用意され、ボスポラス海峡に集まったトルコの船をその上に押し上げる。そして台車と縛り付ける。

船は丘を越える(1)_c0067690_13481720.jpg

③ 牛は引く、兵士は押す 
 台車に載せられた船は道の左右に数十頭ずつ分かれた牛によって引かれていく。後からも人の手によって押されていく。白馬にまたがり指示をしているのはメフメット2世。21歳なのにこのおじさん顔は威厳を表すためだろうか。

④ 目くらましの砲撃と軍楽 この間ビザンティン側の目をそらすために金角湾の鎖のあたりで激しく砲撃を加えた。すべてのビザンチンの船は鎖を守る体制をとっていた。

 こうして、見る人々が唖然とする中、メフメット2世は当然のごとく顔色も変えずに采配をふるっていった。

 現在でもガラタの塔に行くだけでもけっこうな坂であるし、海辺から車でタクシム広場に向かってもかなりな坂を上っていかなければならない。最も高いところは海抜60mのところであった。だれがここを船を登らせようと考えるだろう。しかも一艘・二艘ではなかった。七十艘を越える艦隊を超えさせようというのだ。

船は丘を越える(1)_c0067690_1691386.jpg

 丘を上りつめるとあとは下りになる。そうなればわずかに押すだけで滑っていく。そして、これまでラテン人の強固な守りで一隻も侵入できなかった金角湾の奥に、次々と70隻の船がすべり進水していくのであった。
 テオドシウスの城壁で守りに付いていたビザンチン側の人々は声もでなかった。浸水した船はすぐに周りを囲み、防御の陣をはり、次にやってくる船を守った。しかし、その必要もないくらい、ビザンチン側はあまりの事実に驚愕し、目の前の事実を信じられず、呆然とするのみであった。

~~☆~~~☆~~~☆~~~☆
 艦隊の丘越えはメフメット2世でなければ考えないし、実現しなかったのではないかと思う。

 海戦での屈辱から、すばやい決断と迷いのない指令と無駄のない工事、さらに一糸乱れず、20万人近い軍勢を働かせる統率力・・・これが21歳のスルタンのなせることなのか、少なくとも、彼は少年時代からの経験で身体は21歳でも、精神面は実年齢とはかけ離れていたのだろう。

                                 応援クリックお願いします。  

by miriyun | 2008-06-21 14:25 | トルコ | Comments(6)
Commented by ぺいとん at 2008-06-21 22:54 x
!!!!! 
70隻の船が陸を滑って行くなんて空から見たら笑いが止まらないくらいにすごい光景ですね!ドキドキします!! 
鳥になって見てみたかったな~。 
孫子(よく知らないですが)も真っ青の兵法ではないでしょうか。
Commented by miriyun at 2008-06-22 21:45
 この70というのが信じられない思いだったのです。しかし、状況を調べていくと、10や20の船を動かしても殲滅されてしまうだけであって、70だからこそ金角湾の制海権を得たのでした。
 感覚的な自分に対してスルタンは現実に必要な数値を考えている物だと感心したりしています。
 ウフフッ、ぺいとんさんと一緒に空から眺めているような気になりました。
Commented by cool-jay at 2010-12-14 14:06 x
子供の頃、何かの本で昔の船が山を登る挿絵があって・・・
帆船、山超え、丸太のコロ、トルコ人・・・
これだけが記憶にあったのですが、このHPを見て長い間の謎が解けました。
ありがとうございました。
あ~すっきりした!
Commented by miriyun at 2010-12-18 18:36
cool-jayさん、ようこそ!
艦隊、山を越えるの図って気になりますよね(^∇^)
私も頭の片隅でこれが気になっていて、ビザンチンがわの海峡封鎖の鎖が残っていると聞いて、なんとしてもこの機会に見てこようとしたものです。
常人には考えられない事を発想するメフメット2世たいした人物です。
Commented by Japon’um at 2010-12-20 00:38 x
初めまして。こちらの写真を学校のプレゼンテーションで使わせていただきたいんですが、よろしいですか?
Commented by miriyun at 2010-12-20 01:53
Japon'umさん、ようこそ!
学校での発表についてはお使いいただいてかまいません。
小中高大専門学校などの学校種や発表の題名などお書きいただけると今後の参考になります。よろしかったらお書きください。また、質問がありましたらどうぞ。


<< 船が丘を越える(2)      メフメット2世の教科書 >>