2008年 05月 20日
イスラームの世界は私などが一言では語れないほど複雑だ、歴史的にも欧米が逆立ちしても届かぬほどの歴史を持っているし、ましてやその栄光ある歴史を踏みにじられた経験も持っている。物も人も、交錯し現れては消える。 そんなイスラームについて、文化や自然・人々を見つめてという展開をしてきている。政治的なことは私の分野ではない。 ところが、ここのところコメントで聞かれたことに関してしばらく考えていることがある。思いのままに、(きっとまとまった文にはならないだろうが・・・)記す。 1、安全について *5月4日朝にこういうコメントをいただいている。 「5月2日にイエメン北部でテロが起きた。どうしてこんな惨いことがおきるのでしょう。~」 とその方はあたたかい気持ちをもってイエメンの人々ことを思いやって心配されていた。 *5月4日の晩に次のようなお返事を書いた。 「マーリブといい、先日のサーダといい、以前から危険だといわれていたところではまだまだ反政府勢力による事件が多いです。旅行者など地元につながりのないものは少なくともこういった紛争地は避けたほうがいいでしょう。これまでテロはほとんどその危険とされていた地域とアデン沖合いで起きていました。しかし、ここのところ首都のサナアでも事件は起きており、一般のイエメン人にとっては迷惑なこまったことばかりおきています。長い南北イエメンの内戦をこえて統一されたのにこういう紛争が続いていることが残念でなりません。」 *5月7日にイエメンのマーリブで日本人の女性がさらわれる事件があった。 幸い半日で無事相手の部族の人が返してくれたということで本当に良かったと思う。そして、この事件自体の背景も旅行社のことも知らないし、個々のことを取り上げたいわけでもない。 しかしこのとき、イエメンを書いていた後だけに、自分として何か書くべきではないかと気になった。 イエメンはたしかに良いところだし人柄もユーモアがありいい人たちだ。自然の変化も伝統的な家のつくりも素晴らしい。 実はイエメンに限らず中東全域、歴史好きにはたまらない、自然派にもたまらない、工芸愛好家にもたまらない魅力がある。メディアが危険ばかり・悪いニュースばかり発信するので、ここではそれ以外のことを発信している。 読者もそういったこともよく知っておられる方が多い。 だが中にはそういったニュースや外務省安全情報を見ないで、旅行会社のうたい文句と旅行記録のみしか見ない人がいるとしたら、それもまたかたよっていることになる。 良いところがたくさんある―――という事実と、 世界にも日本にも危険はいっぱい―――という事実は相反するものではない。 一緒に存在するものなのだ。 今、それぞれの人が住んでいる街で、いつ強盗に襲われ、地震にあい、テロに襲われるかわからない。そしてその危険度も刻々と変わっていく。自衛できるところは自衛し、できないところは準備を整え、それぞれに対処していく。 旅行については、一部指定の仕方がかたよっていないかと思われる節もあるが、それでも世界のニュースがまとめられている外務省安全情報は、慣れていない人にとっては必見だろうし、一国の中を細かく安全度を分けた地図も見たほうがいい。中心部はいいけど国境付近だけは緊張状態にあるとか、日本に住んでいると考え付かないことが地図の中に見えてくる。それ以外にも旅行社・在住者の意見も大事だろう。 例えば掲載したばかりのマーリブについて言えば前々から危険情報があり、昨年は欧米人が殺されている。55万平方キロメートルという日本よりずっと大きな国でありその山岳地帯に反政府勢力があり、そこについては政府側が治安に自信がないのだということがいろいろなニュースから見えてくる。一つの国を一からげに見ることができない場合があるのだ。 また、以前はほぼ安全と思われたサナアも事件が起きてきている。そういう時の変化もある。 かといって、昔ながらの南北イエメンがまだあるのだろうという人がいたり、イエメンてまだ鎖国をしているからイエメンには入れないのだろうとか、イエメンは危険で町も歩けないというのももちろん違っている。 あえて言うならそういう危険なところもある・・・といえるだろう。それは他の中東地域も、あるいは世界の各地にもあてはまる。 一時、日本がテロにあう危険な国だとされた。ある南米出身の人は、日本に来るのに故郷の人から、地下鉄には絶対に乗るなと釘を刺されてきたという。 このときも日本人はたしかにそういうこともあったが、全部がそうではないのだ、今はたぶん大丈夫だといいたくなる。他の国の人もそういう思いはあるだろう。 いずれにしろ、そのときそのときの安全性や国民感情・歴史的背景などを見ることは必須であろう。 2、日本人への評価 海外に出ると日本人への評価が痛いほどわかることがある。 日本人がその国で何をしてきたかということが直結する。 今回のマーリブの場合も、日本人は手荒なことはされずにすぐに返された。これは背景に日本人に対する思いがある。 中東で日本は宗主国ではなかった、つまり植民地支配や戦争で関わらなかった日本、しっかりとした仕事や輸出品に定評のある日本を評価している。また、戦後のJICA・NGO、などの活躍・援助、それに住みついている日本人の誠実さについての評価が日本の評価になっている。 そして、日本の首相の発言や閣僚のちょっとした発言、自衛隊がどう活動したかといったことがその地では大きく響く。日本にいると読みもしない首相発言に、海外ではえ~っ、こんなこと言ってる!と敏感にならざるを得ない。 私たちはまだ先人たちの努力の上での評価に守られている。けっして日本人が大事にされるのは日本人がえらいからではない(時々勘違いしている人がいたりするのは残念だ)。 その国の歴史を知ると共に、これまでの日本人のかかわりも知って世界と向き合っていきたいものだと思っている。 (2008年5月の時点での記事です)
by miriyun
| 2008-05-20 22:46
|
Comments(11)
ヨルダンから帰ったばかりですので、miriyun さんのこの記事に深~くうなずいてしまいました。中東方面では最も安全な国だと思われるのに周りの人間には「危ない所へ行く」と思われ、行ってみればもちろん安全なのだけれど、イスラエル国境近くの検問やアカバで周辺国との関係の危うさを実感させられ。そして日本国パスポートのありがたさもおおいに実感させられたのでした。
でも一番の収穫は、もうこの地域の動向に無関心ではいられなくなったということでしょうか。
0
Commented
at 2008-05-21 06:00
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
Joe
at 2008-05-21 07:46
x
私たちはまだ先人たちの努力の上での評価に守られている。けっして日本人が大事にされるのは日本人がえらいからではない(時々勘違いしている人がいたりするのは残念だ)。
--------------------------------------------------------------------- Muzukasii Mondai Desu. Tada Hitotu Ierukoto. Darega Douto Iukoto Dewanaku, Dono Mondaimo Daremono Mondai Tosite Teigisareru Jidai Ga Kiteiru Toiukoto. Ningentosite Dou Arubeki Nanoka. Sonnakotomo Jinkaku Keiseino Itibutosite Toraerareru Ningenni Naritai. p.s.Taitoruwo Owasurezuni(wara).
Commented
at 2008-05-21 08:08
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
miriyun at 2008-05-21 22:59
luntaさん、お帰りなさい。安全・危険についてはluntaさんのご感想と同じように思います。危険危険というほど危険ではなくいたってのんびりした生活がある。かといって国土全部かというと、一部には十分注意しなければならないこともあり、不測の事態もあるかもしれない。そういったことを強く感じます。
また日本という言葉に救われることがあります。国外に出たときその重要さがわかりますね。
Commented
by
miriyun at 2008-05-22 06:59
鍵コメ様、 実際どう思いを表現しようかとしばらく考えていました。そして、簡単な歴史も書き始めてみると今まであえて書かずにいたマーリブの名もでてきます。ここでいれようと思ったわけで、書くにあたって時間をかけたのはお察しのとおりです。
観光案内をしているわけでなく、個々の事象に関する写真エッセイみたいなものなんで、気楽に書かせていただいてきました。ですが、毎日見てくださる方の数が以前とは比べ物にならないのでこういうことも書くべきかと思ったのです。 日本と世界、危機意識、いろいろ考えさせられ、いいきっかけになりました。 丁寧なコメントをどうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。
Commented
by
miriyun at 2008-05-22 07:04
ジョーさん、これまで日本人がおこなってきた仕事や援助が中東では高く評価されていることが多いと思います。
逆に言うなら、例えば遺跡にいたずら書きとかそのほかいろいろな行為が日本を引き摺り下ろすことにもなります。そういうもの一つ一つが海外では直接的に響いてくることがありますね。
Commented
by
Azuki
at 2008-05-23 00:50
x
こうして文章にしていただくととても分かりやすいです。
外からの視点と内からの視点は違うんですよね、それに気づいたとき自らを知れるというか。日本人の評価もほんとうに所変わればで、今までのかかわり方で大きく違っていて驚くことが多いです。 調べれば、興味を持てば、おのずと分かってくるものがあります。 初めて私が気づいたのは、私ならすぐに旅行できる国が彼には手続きに1ヶ月もかかるということでした。普通だと思っていたことがそうではないということ、もっと知らなければいけないと思いました。
Commented
by
miriyun at 2008-05-23 02:36
Azukiさん、国というものは内側からだけ見ていると何にも気付かないことが多いですよね。他を見ることで日本というものが鮮明に浮かび上がってきます。だから海外に関係するとよく日本を考えるのだと思います。
最後のお話、そうだと思います。時にはもっと時間のかかることにも遭遇するかもしれません。たしかに見方が変わる一瞬となってしまいます。まだまだこれからも考えることがたくさん出てくると思います。違いを冷静に見つめていきたいですね。
Commented
by
asiax at 2008-05-24 03:48
-メディアが危険ばかり・悪いニュースばかり発信するので、ここではそれ以外のことを発信している。-
そのお言葉、私もよく分かります。私が紹介する東南アジアもそうですし。 海外で事件が起こるたび、海外は危ないところと決め付けられてしまいますが、日本でも事件はたくさん起きてますし、何事も冷静に受け止め、フレキシブルに対応したいですね。
Commented
by
miriyun at 2008-05-24 09:02
asiaxさん、そうですね。何をどういう意図で書くかを決めているとぶれることなく書いていかれます。asiaxさんはいつも自分流をしっかり持って書き綴っておられますね。
目先のことに揺れ動かされるのは日本の常ですが、全体像としての情報を持たないか、物の本質を見ないときにそういうことがおこりやすいです。 いずれにしても広い視野を持っていってほしいものだと思っています。 |
アバウト
カレンダー
記事ランキング
タグ
高橋大輔・フィギュアスケート(345)
季節の風物・日本の光景(317) ★アラビア書道(153) ◆イスタンブル歴史紀行(142) UAE(ドバイ・アブダビ・シャルジャーなど)(139) シリア(86) イエメン(85) ◆料理とお菓子と(85) 本田孝一氏Web作品展(63) トルコ(63) ◆時の話題(62) Fuad Kouichi Honda(58) チュニジア(51) ◆ラクダ(50) マレーシア(49) ◆砂漠・砂漠化・砂・蜃気楼(47) イラン(ペルシア)(44) ヨルダン(43) サハラの情景(43) アラビア語のカリグラフィー(38) ペトラ遺跡(37) ◆各地のモスク・廟・メドレセ(35) 港ものがたり(34) 文様の話(植物文様・動物文様・組紐文様など)(34) 鳥(クジャク・ハト・カモメ・シラサギ・ダチョウなど)(32) ◆子どもたち(32) アラブ・チャリティー・バザー(30) イスラームの工芸(エブル・テズヒーブ・金彩・装丁)(29) オスマン帝国外伝(29) ◆砂漠の植物・その他の植物(28) ◆衣生活*民族衣装(27) ★ライオン紀行(27) 植物の話(葦・ザクロ・綿花・桑・オリーブ・ひまわりなど)(26) モザイク紀行(26) サラディン(26) 王ヶ頭ホテル・美ヶ原(25) ◆世界の家のつくり・材料(25) アル・マハ・デザート・リゾート(25) ◆人々と暮らし(24) 日食・月食・星・虹・幻日・ブロッケン現象・サンピラー(24) アブダビ(23) 絨毯・キリム(23) ウズベキスタン(サマルカンド・ブハラ・タシケントなど)(23) ◆国際協力(JICA・青年海外協力隊・NGO)(23) ◆象嵌(貴石・大理石・貝・金属など)(22) ◆ペトラ特集(22) クローズアップ人物(22) レバノン(21) ◆古代エジプト(21) タイル(21) ◆馬・牛・ロバ・ヘビ・家禽(21) 東京ジャーミー(モスク)(21) 桜(21) オリンピック開会式・他(20) ◆光の技・朝景・夕景(19) シェイク・ザーイド・モスク(19) ナツメヤシの話(19) 映画と史実・撮影地・エピソード(18) ◆ワディ・ラム特集(18) クイズ(18) ローマ帝国(17) 世界のフルーツの話(17) 水生植物(睡蓮・蓮など)(16) ◆レイクパレス(16) イマーム・モスク(16) 猛禽類(鷹・ハヤブサ・梟・鷲)・鷹狩(15) 東日本大震災(15) エジプト(14) ◆ミニアチュール(14) 航空写真(14) ◆飲み物(お茶・コーヒーなど)(14) カンボジア(14) デーツ(13) ミマール・スィナン(シナン)(13) サウジアラビア(12) アヤ・ソフィア(12) ◆ウマイヤドモスク特集(12) ◆トプカプ宮殿(11) トゥーラ・トゥグラー(11) アラビアン・オリックス(11) ブルジュ・ハリファ(11) 佐竹史料館(10) ペトロナスツインタワー(10) ◆結婚式・割礼式など(10) ◆古代文字(ヒエログリフ・楔形文字・ローマ・ナバテア文字他)(10) ◆水の話・水道橋・貯水池(10) ★刺繍・布・織りの世界(10) アラビア書道の年賀状・カード(10) ダマスカス(9) 熱気球の旅(9) 浴場・風呂の話・テルマエ・ハンマーム(9) ◆暦・古天文・科学(9) パピルスの話(9) ◆日本との関連(9) モスクのつくり(ドーム・天井・ミフラーブ・ミンバル・絨毯他)(8) プロカメラマンの話&写真展(8) ◆オアシスとその周辺(8) ミナレット(マナーラ)(8) 武士の文化(8) ◆タージ・マハルとアグラ城(8) 最新のコメント
お気に入りブログ
ヒンズー語ではありません。 中東イベント情報 アフガニスタン/パキスタ... イスラムアート紀行 はなももの別館 部族の絨毯と布 caff... Over the Blue アジアⅩのブログ 旅と絨毯とアフガニスタン トルコ~スパイシーライフ♪ にっと&かふぇ ギャラリーもっこ堂 アートなD1sk 前田画楽堂本舗 森の釣り人 アトリエサフラン トルコ... ツルカメ DAYS ソーニャの食べればご機嫌 - イスタンブル発 - ... わんわんぶー *********
・・・・・・・・・・
イスラームの自然や文化の写真はすべて自分の撮影したものです。ご利用になりたい方は非公開コメントにしてコメント欄に連絡用メアド等記入してください。 ▼△▼Ranking▼△▼ *応援ありがとうございます ◆It is prohibited to use the photograph, the image, and the illustration published in this blog without permission. ▼リンク集(エキサイト以外)▼ ◆こよみのページ ◆茉莉千日香 luntaの大きい旅小さい旅 いち子ばーばのお針箱Ⅱ 旅のミラクル 風と花を紡いで Kの庭 CROKO NOTE 地球散歩 エジプト大好きAnnyのひとりごと エジプト旅行カバン 中東ぶらぶら回想記 Asian Memories ETHNOMANIA 優しい世界の作り方。 のぶヒろぐ~漆喰について日々考える~ シンガポール熱帯植物だより+あるふぁ 実りのとき The Japanese Dubai ************* ☆日本アラビア書道協会(JACA) ☆アラビア書道とその周辺 ▼▼▼▼▼▼ ▲自己紹介▲ ☆写真・・・カメラを通すと新しい視点が与えられます。 ・TV番組や書籍に採用されています。(使用をご希望の方はコメント欄にご記入ください。) ☆文字・・・ヒエログリフ・楔形文字・マヤ数字・トンパなどにはじまった文字への思いは、アラビア書道に昇華しています。 ・アラビア書道 IRCICA国際競書大会 第4回・第5回・第6回いずれも Incentive Prizes 入選 ☆自然・・・イスラーム地域や日本の自然のささやきをひろってきます。ただし、最近はアジア・ヨーロッパなども含めて幅広く書いています。 ☆文化・・・いろいろな地域の文化比較や相互の関連を見ていきます。 ★これらが一つに重なって大きなライフワークになっています。 ☆また、スポーツの世界で稀有の芸術性を体現するフィギュアスケーター高橋大輔選手の魂の演技を見つめ応援しています。 ◆アクセス数(2006年5月ネームカード導入後のカウントで表記) 2017年 700万アクセスとなりました。 ご訪問ありがとうございます! ◆Welcome!! (2009.03.28より設置) ☆最新の来訪国等 ようこそ!(^_^)/ 183か国目マン島 182か国目セントルシア 181か国目マリ 180か国目バヌアツ 179か国目トンガ 178か国目バルバドス 177か国目キュラソー(オランダ領) 176か国目ジブラルタル 175か国目モーリタニア 174か国目ジャージー 173か国目セイシェル ▼▼▼▼▼▼ ◆こちらは自然と文化を一個人が自由に語るブログです。内容に関係のないコメントおよび販売を目的としたコメント、各種中傷、政治的発言等はこちらで削除させていただきますので、ご理解のほど、よろしくお願いします。 ブログパーツ
カテゴリ
全体 自然(砂漠・ラクダ・蜃気楼) アラビア書道 カリグラフィーを読もう サラディン紀行 Fuad Kouichi Honda ヨルダン イスラームの工芸 トルコ 絨毯・キリム シリア 東京ジャーミー(工芸) イラン(ペルシア) 日本の中のイスラーム 食べ物・飲み物 中東について レバノン イスラーム全般 写真館 中央アジア 数字・文字 チュニジア エジプト その他 インド U.A.E. 文様の伝播 マレーシア サウジアラビア 日本 動植物 カンボジア 空・太陽・月・星・雲 未分類 以前の記事
2023年 10月 2023年 09月 2023年 04月 2023年 03月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 08月 2022年 06月 2022年 05月 more... 検索
外部リンク
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||