写真でイスラーム  

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2008年 01月 25日

トマトレッドの20年…リュステムパシャ(4)

 サンゴレッド・トマトレッドと呼ばれる赤が16世紀に出現した。不思議なことに不世出の建築家スィナンの活躍した時期のうちのさらに短く20数年間だけ出現した色であって、その後、同じ色をタイルにあらわすことができなくなっている。
 このリュステムパシャ・ジャーミィは1561年に完成しており、イズニックのタイル工房のまだ世に出ていなかったタイルも含めてふんだんに使われている。そういう意味で貴重な赤のタイルなのだ。
トマトレッドの20年…リュステムパシャ(4)_c0067690_7101911.jpg

  少しでも赤が使われるとそのタイルの模様は生気を帯びてくる。

トマトレッドの20年…リュステムパシャ(4)_c0067690_6484514.jpg

                        ↑チューリップの柱
いわゆる左右対称の文様を並べたというものだが、何しろ赤の鮮やかさに目を奪われる。
トマトレッドの20年…リュステムパシャ(4)_c0067690_6102148.jpg

 そのチューリップに光を当ててみる。前出の通り、赤は溶けないため盛り上がった状態で残り、表面の釉薬だけが溶けている。したがって、光によってこのようにくっきりと盛り上がりを見て取れる。

トマトレッドの20年…リュステムパシャ(4)_c0067690_5442411.jpg

 優美な曲線を持ったツルや葉と赤の花とチューリップがほぼ完成した文様として登場してくる。トルコブルーが中央の赤い花々を尚更ひき立てている。


★ このような赤がなぜ失われてしまったのかだろうか。
 
 職人の間でつくり方が秘密とされ、弟子にさえ容易に教えなかったために技術が途絶えてしまったといわれている。しかし、いくら昔の人は寿命が短いとはいえ、たった20年で途絶えてしまったというのは不思議な話だ。いくら営業上の秘密であっても職人だって晩年までには技術を伝えたいと思うものだ。

 歴史上、珍しすぎるほど短い20年という数字にはどんな意味がこめられているのだろう。
記録を残しながらものづくりをすることがなかった職人の、あまりにも偶然性に基づく赤色の出現だったのか。技術の流出をおそれた支配者スルタンなどから技術伝達に制限がなされたというようなことがなかったのだろうか。

 ――リュステムパシャ・ジャーミィのトマトレッド
      こういう技術が1500年代にあったという事実のみを語り続けている・・・
 
                                       
                                                    
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by miriyun | 2008-01-25 23:57 | トルコ | Comments(2)
Commented by orientlibrary at 2008-01-26 10:09
いちばん下の写真のタイル、構図も発色も文様も素晴らしいですね。完璧な美しさを感じます。そして勢いも。
美しいものは古今東西たくさんあると思うんですが、やはり勢いが人を(少なくとも私はそうです)惹き付けるのではないでしょうか。
時代の勢い、空気みたいなものです。釉薬の上を、さらにそういう空気が覆っているような気がします。
陶器や布や、いろんな分野で、技術だけ再現されても何か違う、と思うときがあります。復興〜再現というのは本当に素晴らしいことなのですが、空気までは再現できない、仕方ないことですよね。そこからは見る者の創造力なのかなと思ったりします。
そして、本物を見ることの幸せを感じます。
時代の力の伝わる写真を見せて頂きました。ありがとうございました。
Commented by miriyun at 2008-01-26 16:40
orientさん、勢い・・・おっしゃるとおりだと思います。天平でもサファビーでも勢いのあるとき、さまざまな分野に清新な風が空気が吹きわたり、それが各作品に生き生きとしたものを宿らせるような気がしてなりません。

 よく鑑定士がよくできているが勢いがないといっているのを聞きます。どこが違うというわけではないのだけれど、ピリリと伝わってくるような、あるいは作品から何かが流れ出してきて、こちらの五感を刺激してくるものがないと魅力が見えてきません。
 いつも励ましてくださってありがとうございます。わずかながらも皆さんにいいモノを見ていただくために頑張りますね。


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