2010年 01月 03日
どうもペルシア語のアブリからトルコのエブルになっていくらしいがその過程で形はどのように変化したのだろうか。 1.バッタルエブルと墨流し(ハフィーフ・エブル)の使用法 バラの枝に馬の尾の筆でインクを落としてマーブル(大理石)文様をつくる。ほとんどのエブルはこれから始まる基本のエブル。ただし、単純文様なので、主に書物の見返しやヘリのところに文様をつけることに用いられた。 その例だが、これはアラビア書道の教本の見返し部分である。現代のもの。 ここまでは、完全に本作りの脇役のさらにその他に入るようなものだった。前に紹介したペルシアの工芸の教本にあったのもこのバッタルエブルだった。 次にこれはペルシアの著名な書家イマードの作品の下地に使われたアブリであるが、これは全く墨流しといってよいものだ。ハフィーフ・エブルという書道用のエブルである。このくらいうっすらと入ったものは日本の和歌の下地にしたのと同じ情緒的な使い方で、こういう分野ではペルシアと日本の似た感覚が読みとることができる。 2.ハティーブのエブル Hatib Ebru トルコでもこのバッタルエブルが長く使われたようだが、あまり装飾という分野には食い込めなかったようだ。 ところが、18世紀、イスタンブルでこのようなエブルが登場するようになった。 淡い単色のバッタルエブルを施し、次にに3色のインクを落とす。次に細い針を使って一部を広がせ、他方を引っ込ませることでハート型や葉のような可愛い文様を作り出す。 作成の舞台はここだ。アヤソフィア・モスク(博物館になったのは20世紀であり、このころはモスクだった)。 ここの説教師であったメフメット・エフェンディが作りだした。 かれはアヤソフィアの説教師であった。説教師をハティーブという。 すなわち、ハティーブ・メフメット・エフェンディとなる。 したがって、美しく書を飾るに最適なこの紙は認められ、ハティーブ・エブル、あるいはハティービーと呼ばれるようになった。 ↑ エブルの写真は『イスラム書道芸術大鑑』IRCICA監修 本田孝一訳・解説 平凡社刊より引用、また、解説もこの書籍を参照している ◆ ハティーブ・メフメット・エフェンディは探究心の強い人であったらしく、工夫に工夫を重ねた。まさか里芋汁は使わなかったのだろうが、遊牧民の流れから、動物性のものはもちろん、海の都イスタンブルを舞台としているので海の魚介や海藻類まで使ったことだろう。いろいろな工夫を重ね、文様をコントロールするための水溶液と絵の具について工夫し続けた。そして出来上がった文様は、今もなお、ハティーブエブルと称されている。 ◆ 世に発明者の名がついたものはいろいろあるが紙の製法についてもそうであったことに驚く。また名がつくほどに、その時代にこの文様は貴重で、しばらこれを上回る技術の発明がなかったことを示している。 彼は、1773年に没したが、作成した貴重なハティーブ・エブルは生きつづけ、彼よりも過去やその後の著名な書家たちのアラビア文字の周辺をこのように飾り続けて、現在に残ったのである。
by miriyun
| 2010-01-03 13:26
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