2009年 09月 15日
横浜の港は、いろいろな歴史がある。欧米はもちろん、インドや中東につながる歴史もある。 119年前の9月15日、この横浜港を出航していった船がある。トルコの船だ。 アジア州の東の果ての日本と西の果てのトルコとは、明治天皇とアブドュルハミト2世の時に交流があったのだった。 1.日本とトルコの19世紀後半 日本は明治維新、トルコも近代化への過渡期にあたり、共通の不安としては欧米の圧力、資本力、技術力に旧態のしくみしか存在しない両国がいかにその危機から脱するかと汲々としていた時代である。 日本では勝海舟・坂本龍馬らがいち早く近代化、海に乗り出す必要を唱え、多くの人物が、日本のことを憂い、且つ対策を次々とたてていった。 一方、トルコは、かって広くて柔軟な人材登用など優れたものを持っていたのに、国益より自らの利益を重んじ、自分の一族を登用するなど官僚システムや軍事機構が内部から崩壊していったたために、「寝たきりの病人」「ヨーロッパの病人」とまでいわれていた。 31代アブデュルアジズは官営工場を150もつくった。理想は求めたが、欧米人投機家だけをもうけさせることになり抜本的な産業振興・職人の育成にはならなかった。 2.アブドュルハミト 2 世とは・・・ ↑アブドュルハミト 2 世・・『近代イスラームの挑戦』 山内昌之署 中央公論社刊より引用 1876~1909在位。オスマントルコの34代スルタン 彼はバルカン諸民族の保護を口実としたヨーロッパ列強の干渉を交わすためにミドハト憲法憲法を発布、議会政治も始めた。しかし、ロシアとの戦争を気に廃止し専制政治を行い、汎イスラーム主義をシンボルとした。 ロシアに敗北後、バルカンの領土の大半を失い、イギリスフランスの侵攻を防ぐためにドイツに接近し、政治的独立を保った。しかし、経済的には、帝国内の特権を多くの外国企業に与えざるを得なくなり、経済的植民地になりつつあった。 ↑アブドュルハミト2世のトゥーラ(トゥグラー・花押) 3.交流・親善 1887年、明治天皇の甥にあたる小松宮彰仁親王殿下、同妃殿下がイスタンブルを親善訪問した。 ↑ 小松宮彰仁親王 この際に、アブドュルハミト2世は明治天皇より勲章を賜り、それに対し日本に答礼使節を派遣することを命じた。この使節にイスタンブルの造船所で建造された軍艦エルトゥールル号が選ばれた。 なお。エルトゥールル( Ertuğrul)とは、オスマン朝の始祖オスマン1世の父である。 この軍艦は三角の帆をもつ機帆船であった。排水量 2400 トンの木造艦であるエルトゥールル号は建造より 25 年を経ていた。1 年前に木造部分が修理されたが、機関部分は放置されれいた。 実は、トルコ海軍のもつ軍艦は、1897年のギリシアとの戦争で旧式のはもちろん使い物にならず、最新鋭のトルコ海軍造船廠で完成させたばかりのハミディエも絶え間ない浸水に悩まされ、人海戦術で水をくみ出す有様であった。砲もほとんど破損状態で使い物にならなかったという。 オスマントルコは国産の造船技術と自国民による兵員と技術者の要請に失敗していたとのちにわかったのである。 しかし、このアブドュルハミト2世の決定により、エルトゥールル号は出航した。11ヶ月に及ぶ長い航海であったが、アブドュルハミト2世は汎イスラーム主義を掲げて、期待を込めてこの老朽木造艦を出航させていた。 イスラームのカリフとしての力を持つオスマントルコがアジア各地のイスラームと連帯を組むことで、列強はトルコを滅ぼすことはできないだろうという考えだ。アブドュルハミト2世はアジアのイスラーム地域の多くを支配するイギリスを刺激することなく、連帯を呼びかける密使を派遣したかったようだ。それにはアジアの東の端にある日本への答礼訪問はなんとちょうどよかったことだろう。 その意味もあり、この船はスエズを通り、アデン・ボンベイ・コロンボ・シンガポール・サイゴン・香港とゆっくり進み、各地のムスリムの大歓迎にあうのだった。 さて、 艦には特別に選抜された 56 人の将校を含め 609 名が乗員していた。 ↑ 以上、3枚の写真はトルコ外務省主催友好親善より引用。 所蔵:IRCICA(イスラーム歴史芸術文化センター) 艦上での将校とその名前が帰されている。今のトルコがラテン文字を用いているのに対してこの頃はアラビア文字を使っていたことがわかる。(テーマと関係ないのに、文字オタクなので、こういうものについ目がいってしまう) その年、海軍士官学校を卒業した若い少尉たちのほとんどがエルトゥールル号に配置され、この遠洋航海で経験を積むことが目的とされた。この軍艦はアブドュルハミト2 世より明治天皇への勲章や贈物を携えていた。 軍艦エルトゥールル号は 1889 年 7 月にイスタンブルを出航し、様々な港に寄港しながら航海を続け、出航より 11 ヶ月後の 1890 年 6 月 7 日に横浜港へ到着した。 明治天皇はトルコの提督を歓迎し、日本国民もトルコの提督(あり大佐は航海途上で提督に昇進していた)とその船を歓待した。また、軍艦エルトゥールル号では日本の海に停泊している 3 ヶ月間、軍楽隊の演奏による交流をなし、また、修復が必要な部分は日本が便宜を図り修復した。 さて、出航を決めた日がやってきたが、日本は反対した。 日本に近づく台風があることを理由に出航の延期を勧めたが、これにもかかわらずエルトゥールル号は予定通り 1890 年 9 月 15 日に横浜港より出航したのだった。 参考*トルコ大使館HP。 『近代イスラームの挑戦』 山内昌之署 中央公論社 イスラム事典。『百年にわたる日本とトルコの友好親善展』の写真キャプション
by miriyun
| 2009-09-15 00:17
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